『ヒロインの条件』
槇村さとる 集英社 \400+税
1989年の3月18日。この日、フィギュアスケート世界選手権で、伊藤みどり選手が日本人として初めて優勝をはたした。
トリプルアクセルを、着氷こそ乱れたものの無事に降り、トリプル-トリプルも成功。ジャンプはほぼノーミス。
なるほど、技術点6.0が5人出るのも納得の演技。というか、当時は6点満点だったんですね。
今のフィギュアは加点法で、たとえジャンプで転ぼうと回りきっていれば点数は認められ、また技術的に難しいことが成功すればそれだけ点がプラスされる。ある意味、いい時代になったものです。
ソチ五輪で羽生結弦選手が金メダルを取り、すっかりフィギュアが市民権を得た現在。
彼のコーチ、ブライアン・オーサー氏の著書『チーム・ブライアン』が人気を博し、フィギュアスケートは選手だけではなく、コーチを始めとしたスタッフによるチームで成り立っていることも知られるようになった。
今日紹介するマンガ『ヒロインの条件』は、当時としてはあまり知られていなかったフィギュアのチームというものにスポットを当てている。
著者は、『愛のアランフェス』などでスケートマンガでは定評のある槇村さとる。彼女が描くことでさらにリアルさは増し、フィギュアスケートの世界は本当にシビアなのだと知らされる。
かつては名門、今や落ち目のスケートクラブに、ひとりの少女が入ってくる。
吉川奈々、9歳。抜群の運動神経と意志の力で、あっという間にスケートの技術を習得していく彼女。
普通なら主役はこの奈々ちゃんだが、物語の主役はこのクラブに勤めるスケートコーチ、元フィギュア選手の山本リサ。彼女は、「自分こそが、世界に熱望される天才少女だと勘違いしたこともあった」過去を持っている。
奈々の存在にクラブ再建の道を見出し、目をぎらぎらさせる滝沢コーチに反感を持ちつつも、リサは奈々の前向きなエネルギーに感化され、自分の本当の想いに気づいていく……。
華やかに見えるフィギュアスケートの世界だが、様々な人間関係のなかで、エゴの渦巻くどす黒い部分もたくさんある。
とはいえ、リサのスケートを愛する気持ちは、自分がひとりではなかった、たくさんの人に支えられていたからこそだと理解した時に大きく花開き、奈々へとつながっていく。そして、新たなチームが作られるのだ。
おなじみのフィギュアの世界を、少し違った観点から見たいかたへおすすめの1冊。
ちなみに、明らかに実在のフィギュア選手がモデルとなっているキャラも登場します(一昔前なので、現在気がつく人がどれだけいるかは微妙なところだけど)。
それと、みんなが悩むジャンプの見分けかたも載ってますよ。
とはいえ、まだ私は見分けつきませんが(笑)。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」