『影武者徳川家康 Complete Edition』第4巻
隆慶一郎(作)原哲夫(画) 徳間書店 \1,000+税
1603(慶長8)年旧暦2月12日――グレゴリオ暦にして3月24日、徳川家康が征夷大将軍に任ぜられ、江戸幕府を開府した。
これより260年以上の長きにわたる、「江戸時代」が幕を開ける。
徳川家康をモデルにした人物、あるいは徳川家康そのものがマンガに登場するケースは枚挙にいとまがない。
これはとりもなおさず「戦国時代」という現代人にとって魅力的な時代性と、戦略・戦術ともに抜群のセンスを持った戦国大名・家康の人間的引力が、そうさせているのだろう。
『花の慶次 -雲のかなたに-』で少年マンガ界に戦国ブームを巻き起こした、隆慶一郎原作・原哲夫作画による戦国マンガ第2弾として登場したのが、『影武者徳川家康』だ。
『花の慶次』の家康は、破天荒な主人公・前田慶次に理解を示す穏和で寛大な人物で、風貌も往年の勝新太郎を思わせる恰幅のよいシブい爺さんだった。まあ、これは巷間に広まっている家康のイメージに近い。
しかし、『影武者~』の家康は、これらのイメージを覆すキャラクターとして描かれており(コミックス表紙をご覧いただきたい)、長身痩躯のイケメンになってしまっている。
本書で家康は「関ヶ原の戦い」開戦直後に暗殺されてしまうため、この人物は家康の影武者となる主人公「世良田二郎三郎元信」なのだが、影武者がこれなので、“本物”もこの外見だったわけだ。
関ヶ原の戦いで家康入れ替わることとなった二郎三郎は、家康並み、いやそれ以上の頭脳を駆使して、いくさのない平和な世の中を作るべく奔走する。
彼が相手にするのは後継者の座を虎視眈々と狙う“息子”の徳川秀忠や、再び権力の座に返り咲こうと野心を燃やす“家臣”の井伊直政に藤堂高虎。逆に関ヶ原で雌雄を決した石田三成の軍師・島左近は平和を願う二郎三郎の想いを知って陰ながら彼をサポートする。
“味方のはずが敵で、敵だった者が味方に回る”という大胆な思考の転換が、多くの読者を刺激した結果「家康、本当は関ヶ原で死んでる」説が、よりメジャーになってしまったようだ。
「徳川家康=世良田二郎三郎元信」説は、現在では様々な研究によって否定されているものの、創作の題材としては魅力的なテーマでもあるためか、まだまだ支持する人は多い。
しかしながら、二郎三郎が隆慶一郎作品の根底に流れるテーマのひとつである“道々の者”に生まれた男で、自由を愛しおのれの信ずるままに進む彼の生き様は、少年マンガにふさわしいロマンとファンタジーにあふれていて、今でも色あせないワクワクを与えてくれる。
<文・富士見大>
編集プロダクション・コンテンツボックスの座付きライター。『衝撃ゴウライガン!!兆全集』(廣済堂出版)、『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、平成25年度「日本特撮に関する調査報告」ほかに参加する。