『ぼくらの戦国白球伝』
魚住青時 講談社 \429+税
1983年3月30日は、株式会社光栄マイコンシステム(現:コーエーテクモゲームス)から、歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』の第1作目が発売された日である。
以降、『信長の野望』はさまざまな機種に移植され、続編も次々とリリースされていき、2015年3月現在、通算14作品目となる30周年記念作品『信長の野望 創造』と、そのバージョンアップ版である『信長の野望 創造 with パワーアップキット』が発売されている。
第1作目のリリースから30周年を迎えた折には、コーエーテクモゲームスが日本記念日協会に記念日登録を申請し、3月30日は「信長の野望の日」と認定されたのである。
『信長の野望』は日本の戦国時代を題材にした戦略級シミュレーションゲームであり、早い話が「国盗りゲーム」だ。
そして、同じく戦国時代と織田信長を題材にしながら、かなり趣の変わった「国盗り」をやるのが、魚住青時『ぼくらの戦国白球伝』である。
主人公の吉田裕志は現代の高校球児。甲子園を目指して猛特訓中に落雷を受け、なんと戦国時代にタイムスリップし、織田信長と出会うことに!
ここで主人公と信長が入れ替わっ……たりはせず、野球しかとりえのない吉田は信長に野球を教えることになってしまう。
すると全国津々浦々に野球が伝播し、戦国大名たちは合戦ではなく野球で国盗りをするようになるのだ。
いわば本作はタイムスリップ・ドタバタ・野球ギャグマンガとでも言おうか。
なにしろ巻末の「参考文献」の欄に、『週刊ビジュアル日本の合戦』(講談社)や『図説戦国武将118』(学研)といった歴史関係の書籍に並んで、『打撃の神髄 榎本喜八伝』(講談社)がラインナップされているところからも、このマンガのバカバカしさ(誉め言葉)がうかがえる。
なんだかんだ言いながらも野球の普及した戦国世界になじんでいく主人公の野球LOVEとボンクラっぷりが見どころ。後半にいくにしたがって、女の子キャラがどんどんかわいくなっていくのもポイントだ。
本作は2005年に「週刊少年マガジン」で連載が開始された。そのため、野球犬ミッキー(広島カープ)など、懐かしい小ネタも出てくる。
時事ネタを放りこむのはギャグマンガの定番ともいえるのだが、いま読むとちょっとしたタイムスリップ気分を味わえるのも一興。
ちなみにコーエーテクモゲームスでは、過去に1作だけ『セ・パ2001』という野球ゲームをリリースしているが(社名が「コーエー」の時代)、このタイトルを知っている人はかなりコアな野球ゲームマニアじゃないかと思います。
ポリゴンの長嶋茂雄監督が妙に生っぽくてオススメだぞっ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama