『美味しんぼ』第8巻
雁屋哲(著)花咲アキラ(画) 小学館 \485+税
4月10日は「四万十の日」。由来はもちろん地名に入る「四」と「十」からの語呂あわせで、平成元年に制定された。
四万十といえば、多くの人は真っ先に四万十川を思いおこすだろう。
四万十川は高知県を流れる全長196キロメートルの一級河川で、名水百選や日本の秘境100選にも名を連ねる。そして本流に大規模なダムがいまだ建設されていないため、「日本最後の清流」とも言われている。
……と、それほど有名な川ではあるが、じつは平成6(1994)年までは「四万十川」というのは正式名称ではなく、「渡川」が河川法上の名称だった。
それが平成6年の7月25日に「四万十川」へと名称が変更されたのだが、一級河川がそのように名称変更されるのは前例がなく、極めて異例のことである。
さて、その四万十川といえば、マンガでは『美味しんぼ』の名作エピソードのひとつである「鮎のふるさと」を抜きには語れない。
この回は山岡士郎と海原雄山が「鮎のてんぷら」で対決するのだが、どちらも甲乙つけがたいという意見が多いなか、京極さんだけが雄山の出した鮎を口にすると突然ポロポロと涙を流し、一瞬言葉を失うほど感激する。
それというのも、雄山の使った鮎が京極さんの故郷である四万十川の鮎だったから……というもの。
その「いい大人が口から鮎のしっぽを出したまま泣いている」という1コマたるや、本当に一度見たら一生忘れないほどの強烈なインパクト!
さらに「なんちゅうもんを食わせてくれたんや……」「これに比べると山岡さんの鮎はカスや」のセリフが飛び出して勝負は海原雄山の圧勝に終わるわけだが、あまりに強烈な京極さんのリアクションによって「四万十川」の名が記憶に刻み込まれたという人も多いのではないだろうか?
そして、実際に四万十川の鮎が食べたい! と思った人もかなりいたはずである。
このエピソードが収録された『美味しんぼ』の第8巻が発刊されたのは1986年。
つまり「渡川」が「四万十川」に改称されるよりも8年も前なので、ひょっとすると“京極さんインパクト”によって一級河川の名前が変わったというのもあながちない話ではないかも?
まぁ、それを抜きにしても、とにかくこのエピソードは「料理対決マンガ」のベストバウトのひとつとしても必読。
本来は「もてなしの心」の真髄として相手の出身地のことまで考えるという話ではあるのだが、個人的には「海原雄山、勝つためならなんでもアリだな!」と思ったり。そこも含めて至高のエピソードでしょう。
鮎のシーズンはもうちょっと先なのは残念だが、今日はあらためて京極さんのリアクション芸と、「思い出補正」まで駆使する海原雄山のガチンコぶりを堪能したい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。