『ネオ寄生獣f』
中村明日美子/遠山えま/金田一蓮十郎/小嶋ララ子 ほか 講談社 \800+税
(2015年3月23日発売)
マンガ史のみならず文化史に残る名作、と断言できる、岩明均による傑作『寄生獣』。
2014年からは、ファンが20年以上待ち望んだテレビアニメ化や実写映画化といったメディアミックス展開がスタートし、再び大きな注目を集めているタイトルだが、マンガ界においても「ARIA」(講談社)2014年11月号から翌15年3月号にかけて、女性作家によるトリビュート作品が掲載された。
参加作家は、中村明日美子、小畑友紀、遠山えま、由貴香織里、厘のミキ、ミキマキ、駿河ヒカル、黒榮ゆい、なるしまゆり、金田一蓮十郎、カシオ、久世番子、わたなべあじあ、小嶋ララ子、新城一という15名。
本書はそれを単行本化したアンソロジーコミックである。
世界観を見れば、原作の登場キャラを絡めたIFストーリーから、寄生生物をモチーフにしたオリジナルストーリーまで。ジャンルを見れば、ミステリー仕立てや恋愛ものから、ギャグまで。作画のタッチを見れば、少女マンガ風から原作を模したものまで。
作家ごとに個性的なアプローチとあふれ出る愛で、いわばいかに『寄生獣』に寄生し操るかを競う、ぜいたくな饗宴がくり広げられる。
ここで常套としては、表紙にもなっている中村明日美子の、はかなげで美しく、そのうえ『寄生獣』的なユーモラスさも備えた「物ッ怪屋」に触れるところだが、あえて「女性作家によるトリビュート」というコンセプトのダークサイド(?)的な作品を紹介しておきたい。
たとえば、遠山えまが描く美術部員・立川裕子視点のBL妄想(校舎裏でサッカーボールを蹴りながら新一と密会する島田を覗き見て、「自慢げにサッカーボールを転がしアピールしまくりんぐ!!」と叫ぶ裕子の勇姿)。
黒榮ゆいの描くパラサイト事件をモチーフにした乙女ゲー(18禁の過激規制/寄生シーン描写あり)。
ミキマキの描く新一女装もの(自分の右手相手に「それならシンイチがいっそわたしをはいてみたらどうだ」「ブルマーになったミギーを俺がはく…」と対話する光景)。
――なるほど、愛のかたちは人それぞれである。
『寄生獣』ファン、参加作家のファンともに必ずや満足するだろう多種多様で個性的な15篇。
パラサイト田村玲子ならば、「これほど大きな個体差――というより個性を持ったということを、わたしはむしろ喜ばしく思う」と語ることを保証したい、魅惑的な1冊だ(ただし、上記で紹介した3篇に関しては田村も「「ああ、そうか」と思うだけ」かもしれません)。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
twitter:@ill_critiqeu