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『食の軍師』第4巻 泉昌之 【日刊マンガガイド】

2015/04/25


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『食の軍師』第4巻
泉昌之 日本文芸社 \590+税
(2015年3月28日発売)


念のため説明しておくと、本作の作者である「泉昌之」というのは、マンガ原作者の久住昌之とマンガ家の泉晴紀が合作する際に使用するペンネームである。

というか、もともと2人は「泉昌之」としてデビューを飾り、のちにお互い単独での仕事も発表するようになったわけだから、“キッチョメン”に説明するなら、本来は「泉昌之の原作担当で、マンガ原作者としても活躍する久住昌之」「泉昌之の作画担当で、個人でも作品を発表するマンガ家の泉晴紀」というのが、正しいのである……いや、まあ、まどろっこしいですがね。

とまれ、そんなわけで。

久住といえば昨今、谷口ジローとコンビを組んだ『孤独のグルメ』のリバイバル・ヒットや、水沢悦子とのコンビによる『花のズボラ飯』のスマッシュ・ヒットでよく知られているけれども、それらはいわば、組みあわせの妙を楽しむカクテルのようなものであり、久住昌之というクセのあるお酒の味を、もっともストレートに堪能できるのは、本作なのだといえよう(どっちが上だとか下だとかいいたいわけでは、「ぬ!(=ない)」)。

そんな本作の基本フォーマットは、常に帽子とトレンチコート姿の謎の中年男・本郷が、気のおもむくままに日本各地に出向き、ちょっといい感じの食事処や居酒屋に入り、当てずっぽうでおいしそうなものを飲み食いして「通」を気どる……というもの。
このマンガならではの大きな特色としては、ほぼ毎回、謎の「軍師」を中心とする、本郷の妄想世界が描写される点と、食事の合間に謎の男・力石との「通」具合を競うバトル(?)が挿入される点があげられる。

なお、明言はされないのだが、単行本の各巻ごとにざっくりと「縛り」が設定されているようで、今回紹介する4巻では、都内近辺の大きな寺社仏閣がある土地を中心にした食行脚が描かれている。
王子稲荷に始まり、神田明神、豪徳寺、鬼子母神、花園神社、新井薬師、川崎大師などなど、地元民でもなければ、お祭りや初詣でもないとわざわざ足を運ぶことはない(神田はラブライバーだと行くのか……?)土地に、「ハレ」ではなく「ケ」の日にわざわざ足を運ぶことの不思議さが、なんともたまらないトホホなおかしみを生み出している。

読めば、あなたの生活圏の近くにも、意外な魅力を発見できることは、間違いないと思う。

なお、この春からは、TOKYO MXほかでドラマが放送されている。こちらも力の入った出来栄えで、要注目だ。



<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei

単行本情報

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