『地上はポケットの中の庭』
田中相 講談社 \562+税
4月28日は「庭の日」。四(よい)二(に)八(わ)の語呂あわせから、日本造園組合連合が制定した記念日だ。
大きな庭でなくても、たとえ小さなプランターも「庭」のうち。日々の暮らしに安らぎをもたらす庭のよさを見つめ、生活にとりいれていくことを推奨するねらいがある。
そこでご紹介するのは、さまざまな庭を舞台とした短編集。
『地上はポケットの中の庭』は、2012年に『千年万年りんごの子』で第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の新人賞を受賞した田中相のデビュー単行本である。
高校生男子がコンビニのバイト中、店内に迷いこんでくるコガネムシをたびたび逃がしてやっていたら、ある日、コガネムシがお礼にやってきて!? なぜか巨大化したコガネムシと向かいあって、庭に敷いたむしろの上で日本茶を喫する……そんな不思議な光景も妙に現実感を感じさせてしまう作者は、デビュー直後からただ者ではなかったのだと改めて思った次第。
タイトル作は、とある老人の誕生日を祝うガーデンパーティーの場面を切りとった作品だ。
家族や孫、親類でにぎわうハレの席だが、当の主役は苦虫をかみつぶしたような顔。といっても彼の仏頂面はいつものこと。人生に不満があるわけではなく、幸せであるほどにそれが終わってしまうのが怖いのだ。
木漏れ日の下、自分の手で築いた小さな家と庭を見わたして……娘や息子たちが楽しそうにおしゃべりし、幼い孫たちがはしゃぎ回る姿を眺めながら主人公は過去を回想する。そんななかで、ふと見えてくるものがある。老いた男の胸に静かにわきあがる人生への感慨、その熱がじんわりと伝わってくる珠玉の名篇だ。
庭とは、自然と都市文化の“子ども”である。実際に庭を持っていなくても……お気に入りの公園に、小さな植木鉢に、あるいは心のなかでもいい、そんな場所を持っていたい。
まずは、つやつやと鮮やかな緑が芽吹きはじめるこの季節、陽光の下で本書を開いてみるのも一興だ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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