『シン・シティ』第4巻
フランク・ミラー(著)堺三保(訳)小学館集英社プロダクション \2,000+税
(2015年3月23日発売)
フランク・ミラーの『シン・シティ』と言えば、ひそかに邦訳の歴史は古く、この20年でじつは今まで3社も日本語版を出しているが、ついにこのたび完訳本が刊行されることになった。
初期の『シン・シティ』シリーズから感じられたのはロマンの追求だった。
誰にも妥協しない男たちが、運命の美女に愛され、卑怯な悪党たちを叩きのめし、自分の筋を通して――時にはこの世から――去っていく。現代の大人向けマンガでは、照れもなくできる話ではないことをかたくなとしてやりとげ、そのなかでもなおアートワークによる実験と挑戦を込めてきたのがミラーの作風だと感じた。
今回紹介する日本語版4巻、完結編となる「ヘル・アンド・バック」はどうであろうか?
ここで描かれるのはまさにミラーが自分の内面を描き出した物語だ。
元軍人で画家志望の主人公ウォーレスは、売れる絵だけを求めるクライアントに喧嘩を売った帰り道、美女エスターを保護することになる。
だが、自分の絵を理解してくれる、まさに運命の恋人であったエスターは人身売買組織に誘拐されてしまう。警察をも巻きこんだ組織に立ち向かうため、ウォーレスは戦争を始めることになる……。
注目するべきは、エスターをさらった組織のボスが「もっと売り物になるように」彼女を整形しようとすることだ。
自分の大切な芸術を売り物にするために変えてしまおうとする外道――これがミラーの考えた悪のひとつの形であり、これと戦うことが創作活動とうたっているかのようだ。
もうひとつ注目すべき点は、ウォーレスが麻薬を投与されて見る、トリップの光景である。
拝一刀、ダーティハリー、キャプテン・アメリカといった、ミラーが影響を受けたシンボル、あるいは自分の過去の作品のキャラクターたちまで総登場するこのシーンは、『シン・シティ』のなかでも異彩を放っている。
自分のルーツ、そして自分の表現してきたものを創作物のなかにこれでもかと叩きこんでくる、まさにクリエイターとしてのひとつの決算と言える。
2016年公開予定の映画『バットマンvスーパーマン』は、フランク・ミラーの『ダークナイト・リターンズ』に大きく影響を受けている。
今秋日本上陸が予定されている、盲目のヒーローを描くドラマ『デアデビル』にも、ミラーからの影響がありありと見える。
彼の持つ極端な政治思想、読者への挑発、あるいはロマン偏重の作風といったクセを、好もうが嫌おうが――我々はフランク・ミラーの時代に生きているのだ。
<文・Captain Y>
アメコミオタク。クリエイター・オリジナル作品専門の邦訳アメコミ出版社Sparklight Comicsから翻訳を担当した『デッドリー・クラス』日本語版第1巻が2015年6月30日発売予定。
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