『忍者シノブさんの純情』第1巻
ゆずチリ 小学館 \552+税
(2015年5月12日発売)
「忍者は正体をあかしてはいけない」というルールを、思春期の気持ちはあかせない、という心境に絡めた作品。
ヒロインのくのいち、シノブは、「忍者」ということを完全に隠してもいいはずだった。
しかし「くの一が心に決めた者」には、そのヒミツを打ち明けてもよいというルールがある。
少年・ヒトヨシのことが気になるシノブは、「ほんとの自分を知ってほしい」という理由からヒトヨシに、忍術を使うところを見せる。
ところが、彼女は極度に内気で、自己評価が(忍術以外では)低い。
忍術を見せられて驚いたヒトヨシが「シノブさんって、忍者なんでしょ?」と問いただしても、決して首を縦にふらない。自分から進んで見せた忍術なのに、それをごまかすために全力を費やしてしまう。
シノブのスゴワザ忍術と、彼女の恋愛への勇気のスゴくなさがおもしろい、へっぽこな忍者コメディ。
ヒトヨシは、いたって目立たない、イケメンでもなければ特殊能力もない、モテない少年だ。
しかし彼は、あらゆるものを許容し、引き受け、優しく接し、助けてあげる。自己犠牲と抱擁の精神に満ちている。単なるお人好しにしては、器があまりにもでかい。
シノブの必要なのは、かっこよくてときめきを与えてくれる男の娘ではない。ともにいて安心できる、自分を受けいれてくれる少年だ。
もう2人とも仲よしだしさ、じゃあ告白しよう!……というところでできないのがシノブさん。
影でひとりで涙するシーンが多い。ああ、思春期の思いは忍術以上に不可解だ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」