『とりあえず、畑で暮らしてみる』
高木ちえこ KADOKAWA \780+税
(2015年5月25日発売)
じり貧・家なしの母と子が、自作の小屋で暮らす「某さん」と出会い、未知の自給自足ライフに突入!
著者自身の自給自足体験をもとにしたマンガといえば、すでに五十嵐大介『リトル・フォレスト』という傑作があるが、本作の著者がモデルの「とう子さん」にしても、彼女の師匠となる「某さん」にしても、生活に窮して自給自足に辿りついた人で、けっしてエコとか自然回帰的な思想ありきのものでないのがおもしろく、リアルでもある。
必死でアルバイトしたお金で格安の土地を買い、ホームセンターで見つけたパネルハウス組み立てキットに工夫を加えて住まいとし、畑でいろんな野菜や果物を育て、鶏を飼い、水道は雨水、電気は太陽光パネルでまかなう「某さん」。
冷蔵庫もないため、食べきれないものはジャムや保存食にしたり、化粧水や歯磨き粉を手作りしたり――といった彼の暮らしぶりは、一見、ナチュラル系ステキ主婦のようでもあるが、エコや自給自足とはけっしてキレイごとではなく……。
バイオトイレに繁殖する、日野日出志のホラーばりの巨大虫に仰天したり、畑を荒らす雑草や虫と格闘したり、想像以上にハードな自給自足の現実に、読者も母子と同じ目線で驚きつつ、ワクワクドキドキ。
「農薬使わないっていうと自然にやさしいイメージですが、自分なんか毎日がジェノサイド(大量虐殺)ですよ」「有機とかエコって こういう連中とつきあっていくってことなんですよ」という「某さん」の言葉に、森羅万象・輪廻転生のつながりにハタと気づき、当たり前に消費してきた「生活」について、改めて考えさせられる。
現代では、農作物や卵はもちろん、化粧品でも調味料でも「買うのが当たり前」となっているが、じつは素人でも簡単に代用品を手作りできるものは少なくない。
そういった「当たり前」を捨てて、いちから自分の手で何かを作ってみるということは、単純に新鮮でエキサイティングな行為であり、自然科学的にも、政治経済的にも「世界の仕組み」を知ることでもある。
そういう意味でも、これは憧れのスローライフ讃歌というよりは、森達也『いのちの食べ方』×坂口恭平『0円ハウス』とでも形容したい、新しいサバイバル・コミックといえる。
保存食や化粧水のレシピから、自家発電やバイオトイレの仕組みまで、詳細な図版&説明文付きなので、実用性も高し。
何かと不安な時代をたくましく、楽しく生き抜いてゆくために、小学校高学年ぐらいの推薦図書としてもぜひおすすめしたい!
<文・井口啓子 >
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて『おんな漫遊記』連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69