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7月1日は童謡の日 『Kの葬列』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/07/01


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『楠本まき選集』第1巻(『Kの葬列』を収録)
楠本まき 祥伝社 \1,200+税


大正7年(1918年)の7月1日、鈴木三重吉によって児童文学誌「赤い鳥」が創刊。
それにちなんだ今日は「童謡の日」と制定されている。
「かなりや」、「赤とんぼ」、「七つの子」、私たちになじみ深い童謡は数多くある。

しかしこれが日本でなく世界となると、一番有名な童謡とは何か。
これはおそらく「マザー・グース」が正解だろう。
「メリーさんの羊」、「ロンドン橋落ちた」、「きらきら星」など、日本でもなじみぶかく歌われているもの以外にも、あミステリーの女王・アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』に登場する「10人のインディアン」、『不思議の国のアリス』の登場人物としても有名な「ハンプティ・ダンプティ」など、その数はじつに1000を超えるとのこと。

さて、今日紹介したいのは楠本まきのミステリアスなマンガ、『Kの葬列』。
表題作をメインに、6編の作品で綴られたシリーズだ。そこにもマザー・グースは登場する。

詩人であったKの葬儀のため、彼の住んでいたアパートの住人たちが墓地に集まる。
そこへやってきた少年・ミカヤ。
彼は、Kが生前暮らしていた301号室の新たな住人であった――。

アパートの住人は、だれもがどこか変わっていた。
常に水中眼鏡をかけ、バスタブを愛する男、201号室の魚住。
牧師の恰好で葬列に参加している、105号室の技師、鰐淵。
1階の肉屋はモーツァルトめいた宮廷音楽家のスタイルで住人に肉を売り歩き、404号室の女は顔のないKの人形を作っている。
304号室の少女は虚言癖があり、502号室の青年はあるものを回収し続けている。

住人それぞれのエピソードから、Kという人物が徐々に浮き上がってくる。
6編を読み終えた時、私たちはそれなりに、Kを理解した気にもなるかもしれない。
どういう人間で、どうやって命を落としたか。
が、それはすべて過去形で、またほとんどがだれかの主観によったものであり、Kの真実はいまだに霧の向こうにある。

夢か現実か。幻想なのか、想像なのか、それとも――楠本まきの手にかかると、何もかもが美しい、遠い国の物語のように見える。
黒と白のはっきりしたコントラスト、イラストレーションめいた画面。
4色、2色、モノクロと、意識して作られた視覚的構成。
ただページをめくるだけで、読者は完成された世界へと引きこまれていく。

さて肝心のマザー・グースだが、登場するのは2つ。
まずはバラバラ殺人を思わせる内容が印象的な「ひとりのおとこがしんだのさ」。もうひとつは「御母様がわたしをころした」。
どちらも、不気味な歌詞の童謡を引用している。
そしてそれらは、物語に当たり前のようになじみ、効果的に作品世界を彩る。

人が物語を好むのは、「そこへ行くため」だと筆者は感じている。
この『Kの葬列』の誘引力はとびきりで、どこか知らない、美しくも残酷な場所にたどりつきたい人には、ぜひお勧めしたい一冊だ。



<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」

単行本情報

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