『山羊座の友人』
乙一(作) ミヨカワ将(画) 集英社 \600+税
(2015年6月4日発売)
今どきのアニメタッチの絵柄に、私のようにオールドスクールなマンガ読みはいまいち感情移入しづらい……と思いながら手に取ったのだが、読み終わったあとには完全に心を持っていかれてしまった。
本作はご存じ、乙一の単行本未収録ながら最高傑作と名高い同名短編のコミカライズだ。
高校生のユウヤはある日、いじめの標的となっていた同級生のナオトが血の付いたバットを持って徘徊しているのを目撃する。自分をいじめていた相手を殺したというナオトに、いじめを見て見ぬふりをしてきたユウヤは罪悪感を抱き、彼とともに逃げる決意をするが――。
凄惨ないじめと暴力、見て見ないフリをする同級生や教師……といった描写は、そのテのニュースが絶えない昨今、リアルすぎて思わず目を背けたくなるが、それとまったく同次元で描かれる、奇妙なものが漂流するベランダ、電車内での山羊との遭遇……といったファンタジックなエピソードが、ヘヴィな現実から飛躍するための「装置」として、物語全体に不思議な異化作用をもたらしているのがイイ。
友情というにはあまりに遠慮がちな、しかしたしかな信頼で結ばれたユウヤとナオト。
ベランダに漂流した「未来の新聞記事」によって、ナオトを待ち受ける運命を知ってしまったユウヤが、なんとか未来を変えようと画策するあたり、SFファンタジーの王道たるスリリングな展開で楽しませるが、じつはそれと並行して、本作にはもうひとつの「仕掛け」が用意されている。
それとは素知らぬそぶりで巧みに張りめぐらされていた伏線が、後半イッキにつながり、予想もしない「真実」があらわになる展開のみごとさは、まさに圧巻。
わかったつもりで、じつはなにも解っていなかった自分。あの時はああすることが「正しい」と思っていたけれど、本当はどうすべきだったのか? もし気付いていたら、結果は変わっていたのか?
そんな永遠に出ない答えを抱えたユウヤに、わずかにあたたかな光が差すラストシーンは、せつなさ爆発!
読後感は決して軽くはないが、不思議なすがすがしさを残す、青春SFミステリ。
ミヨカワ将のセンシティブな画も、読んでみれば、乙一ワールドとうまくマッチしていて好印象。
このテのコミカライズはちょっと……という人も、一読の価値アリですぞ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69