『A子さんの恋人』第1巻
近藤聡乃 KADOKAWA \620+税
(2015年6月15日発売)
マンガをはじめ、絵画やアニメーション、エッセイなど幅広く活動する注目の作家・近藤聡乃の最新コミック。
マイペースで地味な29歳のアラサー女性A子は、日本にA太郎を置き去りにして渡米。
ニューヨークで3年間をすごした後、今度はこちらにA君を置き去りに日本に帰ってきた。
油断するとすぐ懐に入りこむA太郎と、異様に懐が深いA君。
対照的ながらともに屈折したものを抱えた男2人の間で揺れ動く――というより、決断することが面倒で保留しつつも振りまわされてばかりのA子と、彼女の優柔不断さを呆れながらもおもしろがる女友だち、U子とK子ら。
ひねくれた大人たちが繰り広げる日常は、妙にリアルで「あるある!」満載。
あくまでニュートラルで冷静ゆえに、本質を的確に捉えた著者の人間観察描写は、すばらしいのひと言。いずれもアルファベットで記号化された彼・彼女たちは、ちょっと変だけどどこにでもいる、つまりは私やあなたやあの子やあの人だったりするわけで、そんな不完全でありふれた大人たちを、ありのままに愛をもって描き出す、力の抜けた筆致がたまらない。
だれからも好意を持たれてしまうA太郎が「えいこちゃんのあの 疑わしそうに僕を見る目がい~んだよね~」というシーンとか、最高。
高野文子やほしよりこを好きな方には、無条件でオススメ。『るきさん』や『きょうの猫村さん』シリーズ同様、絵も台詞もキャラクターもそこに漂うリズムやセンスも、誌面に描かれたすべてが独特でゆるいのに完璧で、何度も読み返したくなる中毒性があるのです。
読めば、この世界をずーっと見守っていたくなること必至。
ぜひとも長期連載で、お願いします!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69