『デッドリー・クラス』第1巻
リック・リメンダー(作)ウェス・クレイグ(画)リー・ルーリッジ(彩色)吉川悠(訳)
Sparklight Comics \2,200+税
(2015年6月30日発売)
ヒーローものではないアメリカンコミックスが近年その存在感を増している。
それぞれ強烈な個性を発揮している人気タイトルのなかでも、異色の青春マンガがこの『デッドリー・クラス』だ。
舞台は1987年のサンフランシスコ。主人公・マーカスはわけありのホームレス生活を送る14歳、しかも警察に追われる身だ。
自殺未遂と路上生活との間で揺れる日々のなか、ひょんなことから、彼は暗殺者の養成学校に迎えいれられる。
入学してみると、まわりは裏社会のエリート子女ばかり。マーカス自身はサイコキラー扱いされ、周囲になじめず浮いてしまう。
そんな彼の前に現れるのは、馴れ馴れしいオタク、新入生を潰す気満々の体育会系、たわごとばかりのパンクスたち、そしてミステリアスな日本人の美少女……しかもこいつら、全員殺し屋(の卵)ときてる。
スクールカーストのなかで生き残ることが文字どおり命がけの、暴力とセックスとドラッグに彩られた学園生活が始まる。
マーカスの学園生活は、暗殺者修行ではあるものの、ティーンエイジャーならではの鬱屈と狂騒に満ちている。
はみ出し者仲間とつるみ、夜の街を友だちと彷徨いながら音楽談義をし、ドラッグをキメながらラスベガスへのドライブ旅行へ繰り出し、女の子たちに翻弄され、そしてもちろん暴力をくぐり抜けていく。
暗殺者を育てるための学校……というシチュエーションから、ついつい格好いいバイオレンスアクションを想定しがちだ。
たしかにアクションはあるのだが、ここで描かれる殺人はカジュアルなものではまったくない。
子どもたちは、殺す覚悟を決めるのにもひと苦労するし、殺したあとは悪夢も見る。人を殺すというのはたいへんなことなのだ。
『デッドリー・クラス』に登場する子どもたちは、それぞれのスタイルをクールにきめ、まるでなんの弱みもないようにふるまってはいるが、その内面にはやはりそれぞれの傷や重荷を抱えている。
マーカスはそれを気取り屋と軽蔑しながらも、気がつけば自分も格好をつけるためにバカをしでかし、自己嫌悪と後悔にさいなまされながら、生きる意志を固めていくことになる。
アクションを展開できる暗殺学校という状況、そこかしこで引用される80年代のポップカルチャー、そうした舞台装置のうえで展開されるのは、意気がって格好つけてても、一皮むけば心に傷を抱えた10代の子どもたちがぶつかり合う、世代も国境も問わない青春の物語だ。
<文・Captain Y>
アメコミオタク。クリエイター・オリジナル作品専門の邦訳アメコミ出版社Sparklight Comicsから翻訳を担当した『デッドリー・クラス』日本語版第1巻が2015年6月30日発売。
ブログ:「Codex 40000 建設予定現場」
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