『月光』
ウチヤマユージ 講談社 \600+税
(2015年6月23日発売)
本業のかたわら、創作同人イベント「コミティア」で15年に渡って作品を発表し続けてきた著者の『夏の十字架』に続く、メジャー作品集。
ヘルプデスクに9時‐5時で勤める一見平凡な青年・坂本。
彼の自宅はひっそりした郊外の一軒家。そこには厳重に施錠された地下室があり、少女との奇妙な共同生活が営まれていた。
極めて平穏ながらも歪で不穏なものを感じさせる、2人の日常。漠然と漂う違和感、淡白でポップな絵柄、余計な情報を極力排した寡黙かつ絶妙なテンポの語り口が、読者の興味をそそる。
と、不意に挿入される、2人の過去やなんらかの事件の裁判のシーン。
これってなに? 過去の事件? それともこれから何か事件が起こるのか?
いやおうなしに引きこまれるうちに、やがて浮かんでくる「監禁」「筆談」「闇サイト」「宅急便」「裁判」「松濤一家殺人事件」といったキーワード。
それらがイッキにつながり、たたみかけるように「驚愕の真実」を導き出してゆくクライマックスのどんでん返しは、じつにお見事……だけでは終わらずに、ホッコリあたたかな後日談で〆るあたり、著者の人柄なのだろうが、かえって非凡なものを感じさせる。
物語やテーマ自体には目新しさはないが、アイデアとテクニック次第でここまで読ませることができるのだという好例。
娯楽ミステリの小作を読むように、肩の力を抜いてどうぞ。
<文・井口啓子 >
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて『おんな漫遊記』連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69