『月をさすゆび』第2巻
永福一成(作)能條純一(画) 小学館 \552+税
(2015年6月30日発売)
跡継ぎのいない叔父の寺を存続させるため、というのは建前で、「儲かる副業」という叔母の言葉に釣られ、仏教学院に入学した売れないカメラマンの藤井善行(32歳独身)が、下は10代から上は定年を迎えた者まで、老若男女バラエティに富んだ人々との1年限定の学生生活を通じて、少しずつ仏教に目覚めてゆくさまが描かれてゆく。
善行が入学当初から気になっているお嬢様女子大生の日野さん、大きな寺の跡継ぎ娘の麻生女子、東大インド哲学科卒のインテリの加賀青年……。
年齢や環境も違えば、仏教を志した理由もまったく異なる人々との交流にカルチャーショックを受けながらも、それを楽しみ、次第に仏教に対してポジティブになってゆく善行の物語は、「三十男の青春物語」としても楽しめると同時に、そんな(無宗教である)彼のニュートラルな眼差しを通して、知られざる「現代の仏教事情」をアレコレ覗き見れて楽しい。
松本大洋『竹光侍』で原作を担当していた永福一成の原作つき作品ということで、本作では能條は「絵師」に徹するかたちとなっている。
各々個性はあるものの、ズバ抜けた天才でも変人でもなければ、何か「運命」を背負っているわけでもない、本作の登場人物らは、能條ワールドのキャラとしては、ちょっと喰い足りない感もあり、例のキメ台詞のカタルシスもないが、作品の軸となる「仏教」というテーマは、崇高な男の美学を描いてきた能條ワールドにうまくハマっている。
2巻では、彼らが被災地へボランティアに赴くエピソードも登場。
先の震災では、日本人ならだれしも「神も仏もない」という虚無感を抱いたであろうが、被災地では同時に「祈ることしかできない」現実があったことを知り、「祈ること」や「仏教(宗教)の意味」について、改めて考えをめぐらせるいっぽう、あいかわらず、日野さんとの関係に一喜一憂したり……。
善行の「菩提(悟り)」と「煩悩」の行方から、まだまだ目が離せない!
<文・井口啓子 >
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて『おんな漫遊記』連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69