『なんて古っ代!ファラオくん』第1巻
小林拙太 集英社 \400+税
(2015年7月3日発売)
マンガのおもしろさを極めようとすれば、マンガはおもしろいものではなくなる。
逆説的だけれど、それって真理なんじゃないだろうか。
どんな感情をも表現できるマンガは、目を覆いたくなるような悲劇から、心の底から笑えるコメディまでを生み出す多様性を持つが、昨今、名作と評されるものには、負の感情を描いた作品が多いように感じる。
そんななかで、本作『なんて古っ代!ファラオくん』は、ひたすらに楽しさに満ち満ちたマンガだ。
路上で、カツアゲされそうになっていた、普通の小学4年生・まさおみ。そんな彼の前に救世主が現れた……と思ったら、それは全身に包帯を巻きつけたミイラのような不気味なモンスター!
ただ、そのミイラこそ博物館で眠っていた古代エジプト王のファラオくん。まさおみが与えた水分で3千年の眠りから復活……!?
少年誌掲載のギャグマンガというと、インパクト十分のキャラクターにばかり目が向いてしまうが、それに加えてかけあいの言葉選びとテンポのよさというマンガの基本的な部分が『ファラオくん』をさらにおもしろくしている。
水をくれたお礼に“褒美を与える”というファラオくん。まさおみが財宝を期待していると、差し出されたのは「けらい」と書かれた帽子で、「オレ様を一生サポートできる権利をやるのだ!」。いや、ベタベタだけれど、思わずブハッ! と吹き出してしまう。
なんなんだ、このおもしろさ!? 「なんて古っ代!」というファラオくんの驚きの決めゼリフも少年ギャグマンガならではの間合いで効いていて、エジプトの豆知識も満載。
理屈はいいから、ただただ純粋に楽しい作品を読みたい。そんな人に、今読んでほしいマンガだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。