『新装版 親なるもの 断崖』第1部
曽根富美子 宙出版 ¥980+税
(2015年7月10日発売)
読まれるべき作品は、どれだけの時間を経ても、おのずと読まれていくのかもしれない。
1988年から1年をかけて雑誌「ボニータイブ」に連載された曽根富美子『親なるものの 断崖』。
ひと言で言えば、不遇な境遇の女性たちが力強く生き抜いていく物語ということになるが、本作のあり方もそうしたもの。
1991年に初版単行本が出版されるや、翌年には第21回日本漫画家協会賞・優秀賞を受賞。しかし単行本はその後、絶版に。
2007年、宙出版から文庫版が発売されるが、こちらもまもなく入手困難となってしまう。そんななか、今年4月に電子書籍として再版されると、ダウンロード数は47万を突破。そして7月、新装版が発売されることとなった。
それだけ本作を熱望していた読者、また本作に魅せられた読者がいたということになるが、いっぽうで読んでみて強い拒否反応を示した読者もいるかもしれない。
それほどまでに本作で描かれる物語はすさまじい。
血を流してまで股を開く、まさに泥をすすって生き抜こうとする女性たちの姿に、当てられてしまう読み手も多いだろう。作者もまたそれだけ本気で描いている。
物語の始まりは、昭和2年。4人の少女が青森から海を渡って、北海道・室蘭にある幕西遊郭に売られてくるところから幕を開ける。
松恵16歳、その妹の梅11歳、武子13歳、道子11歳。器量よしで気品と色気のある武子は、芸を売る芸妓として育てられることに決まるが、年長の松恵は娼妓(遊女)としてすぐに客を取らされることになってしまう。言葉もなく涙と血を流した松恵は、そのまま首吊り自殺。その死は、すぐさま新たな娼妓を誕生させることとなる。わずか11歳だった梅だ。
本来は芸妓見習いだった梅だが、姉・松恵の墓を建てるためにみずから客を取り、玉代(賃金)を稼いだのだ。
「おらはもう女郎だわ」。
いっぽうで、一番年下の道子は、その不器量さから芸妓はもちろん、娼妓にさえできず、下働きのみをさせられることになる。しかし、成長とともに内なる女に目覚めていく道子。
「したけどおらは女郎になりてえ!! きれいなべべ着て 男とりてえ!!」。
やがて道子は、あばら屋で醜くも着飾って、「大衆便所」と呼ばれながら惨めな男たちを相手にすることになる。
第1部は、梅が娼妓の暮らしのなかで愛する相手と出会い、母となるまでが描かれる。
しかし愛する男である中島は、けっして添い遂げることはできない相手。梅は、あえて過酷な選択をして生き抜くことを選ぶ。
女としての、母としての女性たちの業。そんなふうにくくってしまうのは簡単だ。
しかしそれさえも超越した女性たちの強さ、たくましさ、美しさが本作にはある。
意をけっして最後まで読めば、間違いなくそこには心動かされる何かがある。
読み手も覚悟を問われる衝撃作だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。