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『黒博物館 ゴースト アンド レディ』上巻 藤田和日郎 【日刊マンガガイド】

2015/08/21


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『黒博物館 ゴースト アンド レディ』上巻
藤田和日郎 講談社 ¥880+税
(2015年7月23日発売)


レディース・アンド・ジェントルメン! みなさん、お待ちかね!
前作『黒博物館 スプリンガルド』からおよそ8年、ついに「黒博物館」の扉がふたたび開かれる時がやってきた!!

「黒博物館」とは、黒衣のキュートな学芸員が守る、ロンドン警視庁の中にある秘密の犯罪資料館のこと。
大英帝国で捜査されたすべての事件の証拠品が展示されているというそこには、今となっては仔細な由来のわからぬ代物も多々存在している。

今回、物語の呼び水となるのは、そんな来歴不明の展示物のひとつ、「〈灰色の服の男〉のかち合い弾」と呼ばれる、発射後に真正面からぶつかり、盛大にひしゃげた銃弾だ。
銃弾に秘められたなぞを学芸員に語るのは、そこにまつわる出来事の当事者のひとりである、〈灰色の服の男〉の幽霊――通称「グレイ」。

物語は1852年のロンドンで、すでに幽霊と化し、ドルーリー・レーン王立劇場の名物的存在となっていたグレイのもとを、思いつめた様子の淑女が尋ねるところから始まる。
名家に生まれながらも、どうしようもない不全感を抱えて生きる淑女の名は、フロレンス。その、あまりにも奇妙なたたずまいに感じるところがあったグレイは、条件付きで彼女に力を貸すことを決める。
この幽霊(ゴースト)と淑女(レディ)の出会いが、やがてロンドンを、クリミア戦争の戦場を、大きく動かしていく……。

著者の藤田和日郎といえば、TVアニメ絶賛放送中の『うしおととら』を筆頭に、『からくりサーカス』『月光条例』と、単行本数十巻に渡って展開される圧倒的スケールの大長編の魅力でもって、その名を少年マンガ好きのあいだに轟かせている作家だ。
しかしいっぽうで、短編の妙手としての側面があることも、ファンのあいだではよく知られている。『うしおととら外伝』『夜の歌』『暁の歌』『邪眼は月輪に飛ぶ』、そして『黒博物館 スプリンガルド』……どれも短いページ数のなかで、おどろくほどに濃密な内容を展開している、不朽の名作ばかりだ。

本作『黒博物館ゴーストアンドレディ』も、すでにそうした名作のなかに並べられるだけの貫禄は十分。
新たな傑作がこの世に生まれた瞬間に立ち会える喜びを噛み締めながら、ぜひ手にとってほしい。

描かれた熱い信念に、燃えて、泣いて、感動に打ち震えないのは、絶対に損だと断言する!



<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei

単行本情報

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