『ランド』第1巻
山下和美 講談社 \900+税
(2015年4月23日発売)
6月4日発売の「モーニング」27号掲載の巻頭カラーを先行公開!!
『ランド』(山下和美)ロングレビュー
ベテラン・山下和美の新境地といってさしつかえないだろう。
『天才柳沢教授の生活』、『不思議な少年』などで人間の心の機微を巧みに描き、読者をうならせてきたストーリーテラーが、新作に浮かび上がらせたテーマは“社会”である。
四方を山に閉ざされたその村では、人間は50歳で死を迎える。
50歳まで生きながらえて「知命」と呼ばれるその日を迎え、「あの世」へ旅立つことが最高の幸せだと、村人たちは信じているのだ。
それは、禍々しい記憶の結果である。かつて人々が多くのものを望み、豊かになり、人口が増え……山を切りひらこうとしたことが神々の逆鱗に触れたのだ。
恐ろしい天変地異は、過ぎた繁栄や長生きを望むなど、人間が“神の領域”を冒したことへの戒めだと悟って以来、村人たちは山に住む四柱の神をひたすらに崇めて暮らしてきた。
主人公の少女・杏は、もともと双子として生まれてきた。しかし、杏の片割れの女の子は、役人に「災いをもたらす凶相」と見なされ、生け贄として神に捧げることを命じられる。
父親である捨吉は、泣く泣く山に我が子を置き去りにし、直後に我が目をつぶすのだ。捨てた子をせめて忘れないために「アン」と名づけて――。