このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『ランド』(山下和美)ロングレビュー! その村では50歳になると死を迎える――”この世”を支配する、当たり前のルールにギモンを抱えるのは少女ただひとり…?【「モーニング」掲載カラーカット先行公開!!】

2015/05/29


rando_c01

世の中には平穏に暮らすのが何よりの幸せだと感じる人と、たとえリスクを背負っても好奇心を満たしたいと思う人がいる。
ヒロインの杏はまさに後者。いやというほど聞かされてきた「山の向こうは“あの世”で、人間は生きてそこに行くことはできない」という村の常識を、その通りに受けいれることができないのだ。
なにしろ、空を舞う鳥たちには「境界」はない。「鳥はあの世とこの世をつなぐ“乗り物”だから」と教えられてきたものの、納得できないのが杏である。

そんなある日。山の向こう……すなわち「あの世」から飛んできたとんびが、彼女の手元に布袋を落とす。
その中に入っていたのは、植物の種らしきもの。手が届かないはずの世界からの“メッセージ”を、杏は自分だけの秘密として大切にしようと決意するのだ。

そんなおり、杏の周辺はにわかに慌ただしさを帯びていく。
父の命を狙う、異形の子どもの出現。「凶作」の予言に脅え、神の怒りを鎮めるために“しきたり”を破った犯人探しを始める大人たち……。

占いの結果「凶」に脅える村人たち。大飢饉を避けるには祈り、そして異形の者や災いをもたらす者を生け贄として捧げるしかない……!?

占いの結果「凶」に脅える村人たち。大飢饉を避けるには祈り、そして異形の者や災いをもたらす者を生け贄として捧げるしかない……!?

ある晩、家に潜んできた異形の子どもの後を追いかけて、杏はついに山へと向かう。知ろうとすることがタブーの世界において、それが二度と平穏な日々に戻れない行為だとうすうすわかっていても。
こうした「なぜ?」を貫く勇気が、人間を更新してきたのだと思いをはせずにいられない。

決まりさえ破らなければ村を守るという名目において、山の上から村人たちを“監視”する神々の不気味な姿は示唆に富んでいる。
「夜は外に出てはならない」「山の向こう(=あの世)を知ろうとしてはならない」「人生は50歳まで」と決めるのはいったい誰なのか。

鷲に選ばれし者として空を舞う杏。この直後、ついに山の向こうを目の当たりにすることになるのだが。

鷲に選ばれし者として空を舞う杏。この直後、ついに山の向こうを目の当たりにすることになるのだが。

因習にとらわれた村の昔話として読んでいたはずが……話が進むうちに我が身に走るゾクゾク感は天下一品。
第1巻ラストの驚愕のヒキはマンガ史に残るであろう名場面だ!

『ランド』著者の山下和美先生から、コメントをいただきました!

著者:山下和美

取り上げていただいてありがとうございます。
自分自身子どもの頃から抱いてきたモヤモヤした感覚を
今この時代に生きる大人になった自分が
言語化していくような感覚で描いています。
これからもがんばりますのでよろしくお願いします。



<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」

単行本情報

  • 『ランド』第1巻 Amazonで購入
  • 『天才柳沢教授の生活』第1巻 Amazonで購入
  • 『不思議な少年』第1巻 Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング