『ハケンの麻生さん』第1巻
仲川麻子 講談社 ¥580+税
(2015年7月23日発売)
タイトルだけ見て“ああ、派遣の悲哀を描いたお仕事マンガ?”とスルーしようとした人も、ちょっと待った~!
本書は、ある印刷会社のデザイン部で派遣社員として働く三十路女子・麻生さん(虫マニア)が、常識にとらわれない言動で職場の人々を変えてゆく(帯コピーいわく「変態させてゆく」)様を描いた、ちょっと異色のお仕事モノだ。
特筆すべきはやはり、麻生さんの虫マニアぶり。
仕事はできるがマイペースで、人づき合いよりも趣味(虫)を大切にする麻生さんは、オフィスでもこっそり青虫を飼育したり、虫について熱く語ったり、昆虫本を読みながらお昼を食べたり……。
自由で心から楽しげな彼女の姿に、虫にかぎらず、仕事以外に夢中になれる趣味があるっていいなーと思わせられる。
ちょっとKYな原くん、無茶なスケジュールに振り回されてストレス気味の野田さんなど、職場の人々もそれぞれにイイ味があって、特に、ダンディだがじつは虫好きの常務との関係(休日に一緒に虫採りにいく)も『釣りバカ日誌』のハマちゃんとスーさんを彷彿させる感じで、ホッコリ。
虫に関する豆知識もたくさん登場するが、マニアのウンチクめいたうるささがないのは、著者自身があとがきで書いているように、決して虫に詳しいわけではなく、むしろシロートでいちいち調べて学習しながら楽しんで描いているからだろう。
言われなければ絶対に気付かないけれど、じつは日常のすぐそばに、未知のダイナミックな世界が広がっているのだ――と思うと、無性にワクワクするような、フッと肩の力が抜けるような感覚があるわけで。
2巻以降では、そんな「ささやかな革命」を職場にもたらす虫ガール自身の「変態」にも期待したい。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69