『トラウママンガブックス リトル巨人くん』第1巻
内山まもる 英知出版 ¥1,900+税
9月3日はホームラン記念日。1977(昭和52)年のこの日、王貞治が通算756号となるホームランを放ち、ハンク・アーロンの記録を抜いて世界記録を更新したことに由来する。
この偉業によって王貞治は国民栄誉賞の第1号を受賞。
国を挙げての王フィーバーにわいた当時、王貞治が登場する作品は少なくなかった。なかでも登場機会が多かったのが、読売巨人軍が監修していた『リトル巨人くん』だ。
「小学三年生」などの学年誌や「コロコロコミック」に長期連載された本作がスタートしたのはまさに1977年のことである。
小学生ながら時速150キロの剛速球を投げる滝巨人(たき・きよと)くんは、長嶋茂雄監督に見出され、巨人軍に入団。
長嶋の永久欠番であった背番号3を託され、大活躍する! 現実離れした設定とはいえ、荒唐無稽な魔球などが出てこないせいか、これが意外にまっとうな野球マンガなのである。ピッチャー返し恐怖症に陥って特訓をしたり、苦手なバッティング練習に取り組んだり……“天才”にもある弱点をしっかり克服していく真剣勝負が魅力。
生意気な巨人くんを、先輩たちが厳しく諫めるシーンもあり、人間的な成長ドラマとしてもグッとくる読みごたえだ!
人格者として知られる王さんはとくに、巨人くんに公私ともども親身にアドバイスをする役どころを担っている。
グラウンドの上だけでなく、巨人くんが同級生のように遊ぶ時間がないことをゴネたり、学校の勉強についていけずに困ったりするとき、兄のように手助けをするエピソードがほほえましい。ちなみに、本作の第1期ではチームメイトだが、第2期では巨人軍の監督として采配を振る役柄である。
巨人の選手たちはもちろん、ライバルも実在の選手がバンバン登場。
田淵幸一(阪神タイガース)、掛布雅之(阪神タイガース)、山本浩二(広島カープ)などなど……昭和のプロ野球好きにはたまらない一作である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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