『8bit年代記』
ゾルゲ市蔵 マイクロマガジン社 ¥1,200+税
エイリアンのUFO編隊が画面上部から襲来。
プレイヤーは砲台を操作して迎え撃ち、得点を稼いでいく。
『スペースインベーダー』(タイトー)がアーケードで大人気を呼び、社会現象となったのが1978年以降、すぐに後追いがわらわら現れたが、たいていは模倣作の域を出なかった。
そのなかで本当に発展形として高く評価されたのが翌1979年にナムコ(現・バンダイナムコ)が発表した『ギャラクシアン』である。
『ギャラクシアン』のインパクトは、見映えの劇的な進化だった。
『スペースインベーダー』よりも敵キャラが個別にカラフルでデザインは多彩。
敵の挙動と攻撃には直線だけでなく斜めやカーブの方向性が組み込まれている。
大量の敵を画面に表示しながら1機ごとに素早く動作させ、さらに背景の星々まで滑らかに動かしてみせた。
いわゆるスプライト処理の技術の粋をこらした、真のポスト「インベーダー」がそこには実現されていた。
任天堂は『ギャラクシアン』にとりわけ衝撃をうけ、紆余曲折をへて業務用/シューティングという土俵をあえて離れた。結果生まれたのが家庭用ゲーム機の金字塔、ファミリーコンピュータだ。
時が少し経って1984年のきょう9月7日。
そのファミコンに、ほかならぬ『ギャラクシアン』が移植リリースされた。
『ギャラクシアン』がファミコン誕生を触発し、そのファミコンにて『ギャラクシアン』が生まれ直す……ゲーム史にめぐる因果の輪だ。
さて、アーケード当時の『ギャラクシアン』に言及したマンガに『8bit年代記』がある。
田舎の駄菓子おもちゃ屋などのうらぶれたゲームコーナーで、都会からワンテンポ遅れて渡ってくる各種ゲームの洗礼をあびた1980年代の男の子たちの姿を(法的にアウトなズルい遊び方まで含めて)赤裸々に描写した体験記になっている。
その第2話のタイトルがずばり「We are the GALAXIANS」。
小学6年生だった著者がよく通っていたデパートのゲームコーナーに、夕方になると現れるひとりの男性がいたというエピソードだ。
会社製のジャンパーを粋に着崩した男性は、様々な機種でハイスコアを叩き出すゲームコーナーの英雄的存在。
とくに『ギャラクシアン』での快進撃はすさまじく、著者は心のなかで彼を「銀河戦士」と呼び讃えていた。『ギャラクシアン』のおもしろさと銀河戦士のプレイに心をわしづかみにされ、毎日そばで見続けたせいで著者に男性の吸うタバコの匂いがしみつき親に怪しまれたという挿話がいい味を出している。
そんな銀河戦士も、ゲームコーナーの外では現実に生きる社会人。
著者が学校から帰る途中ふと見かけた時、会社の門から出てきた銀河戦士はくたびれたオトナの背中を見せて歩いていた……。
と、しんみりさせるラストは、いまや自分自身がオトナになった元ゲーム少年の心の逆照射として趣深いものになっている。
『ギャラクシアン』はファミコンに移植され、さらにライセンス化されて何度も生まれ変わった。
しかしゲームに向き合う我々は、あくまで1回きりの人生を生きている。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7