日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『とんかつDJアゲ太郎』。
『とんかつDJアゲ太郎』第3巻
イーピャオ(案) 小山ゆうじろう(画) 集英社 ¥580+税
(2015年8月4日発売)
第1話と同時公開された第2話で、主人公の揚太郎が「とんかつ屋とDJって 同じなのか!!!???」と悟ったとき(千切りのBPM、レコード=皿、フライヤー)、少なからぬ読者が、「おもしろい一発ネタですね(笑)」とインパクトのある出オチネタだと感じただろうし、コミックスから入った読者が第1巻に収められた全11話を読みとおしたときもおそらく、「とんかつとDJの類似性で1巻を走り切るアイディアの豊富さはすごいですね(笑)」と、ワンアイディアのネタものと思った方が少なくなかっただろう。
『とんかつDJアゲ太郎』第3巻は、そんな――ちょうどとんかつを、ただ豚肉を揚げただけのお手軽料理だと思ってしまうような――勘違いをしていた方々こそが読むべき1冊である。
本作は3巻にいたってなお、とんかつ修行とDJ修行のあいだを往還しながら、ジュブナイルの王道を駆け抜けていくのだ。
渋谷にあるとんかつ屋「しぶかつ」の三代目・揚太郎が、上野にある「かつれつ黒門」に修行に出るエピソードで構成された第3巻。
そこで出会う落語家の卵・流亭いん喜との交流を通じて、落語家がラッパーであること、仲間(クルー)によって生み出すグルーヴが重要である点において「それは…とんかつも同じだった!!!」ことに気がついていく。
とんかつ修行によってDJとは何かを学び、DJの経験からとんかつとはなんたるかを学ぶ。
2つの音源をMIXすることでフロアをアゲていくように、2つの道がまじりあうことで人生のステージをアガっていく「とんかつDJ」アゲ太郎。
とんかつ道が豚肉を揚げるだけというシンプルさゆえに奥深いように、本作はとんかつとDJというシンプルな素材に徹底的にこだわりつつ、力強い青春のハーモニーを奏でつづけてくれる。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
「アニメルカ」