日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『おちくぼ』。
『おちくぼ』第1巻
山内直実 白泉社 ¥429+税
(2015年8月20日発売)
中納言家に産まれながらも継母のもとでいじめられる姫君を描いた、平安時代のシンデレラストーリーとして名高い『落窪物語』に題をとったマンガ。
じつは故・氷室冴子も少年少女古典文学館(講談社)シリーズの『落窪物語』にて、独自の解釈を加え現代文にしている。
『おちくぼ』は角川ソフィア文庫の『新版 落窪物語』(上・下巻)で読める原作をもとにアレンジしたとのことで、競作とも呼べそうだが、あの『なんて素敵にジャパネスク』などに代表されるゴールデンコンビの息吹が再び感じられるとあれば、ある世代には「買い」であろう。
いにしえの時代ながら、「女子会」「ギャップ萌え」などの言葉が飛びかい、とっつきやすい。
しかし衣装や小道具などの詳細な描写は、絵巻物のきらびやかさに負けず劣らずだ。
不幸な姫「落窪の君」を手助けするのは、魔女でなく「あこき」という名の乳姉妹(乳母の娘)となる。
気が強くさばけた性格のあこきが、毒親じみた継母に育てられ自信を喪失した、優しく美しくまじめで裁縫上手な幼なじみの姫を幸せにすべく、本人以上に熱心に婚活に奮闘する……という今風のノリで物語を楽しめる。
継母が女の嫉妬で継子である姫をイジメぬくのであれば、女同士の友情で立ち向かう、との構図は悲愴感よりもワクワク感を誘う。
主従関係があるにせよ、あこきの彼氏・惟成より姫を優先するふるまいは、ほのかな……いや、オープンな百合の香りも?
この物語における王子様は少将の藤原道頼のようだが、お城で待たない行動的なプレイボーイだ。
はたして姫にふさわしい相手なのかは、あこきでなくとも気になるところ。
ちなみに、あこきとともに姫を支える継母の少々おませな息子、三郎丸もいい味のキャラだ。
魔法よりも「人の縁」と「萌え心」が助けになるというのも、現代風でありつつ、日本の伝統らしくもある。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。