日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは『リューシカ・リューシカ』
『リューシカ・リューシカ』第10巻
安倍吉俊 スクウェア・エニックス ¥667+税
(2015年8月22日発売)
栢橋龍鹿、通称リューシカと呼ばれる女の子の日常を描く。
カチューシャがトレードマークの愛らしいリューシカだが、年の離れた姉「あーねーちゃん」と兄「あにー」、学者らしい父親の「ぱー」、忙しい母「まー」(それぞれリューシカ独自の呼び方)という家庭に育ち、空想力・妄想力がちょっぴり(?)激しい。
家にある物やご近所、折々のイベントなど、さまざまなものを見て想像を膨らませ、時に騒動を起こす。イラストレーターとしても活躍する作者が、全編フルカラーでリューシカが見ている世界を活写し、眺めているだけでも楽しい。
最終回の着地点には、意外に思う人も多かったのでは?
同作者が脚本、キャラクターデザインなどを手掛けたアニメ『灰羽連盟』は死生観がテーマといえるし、スラプスティックコメディ『NieA_7』ですら、笑いのなかに大きな喪失が描かれている。実際、『リューシカ・リューシカ』も構想時はもっと哲学的な話や、シリアスな展開の可能性もあったと語られている。
時折はその影もあるが、だんだんとリューシカの不思議行動をゆるく見守り、時にはつっこむ家族漫才の様相を呈してきた。本作はそれが、より満たされた形になる予兆を示唆するエンディングとなっている。
しかし、それでも読者は寂しさを禁じえない。おそらく「リューシカ」は「龍鹿」になっていくのだろうと予想されるから。
そのほうが彼女にとっては幸せなのだろうが、やっぱり「リューシカ」が愛おしい。
寂しくて満たされない時も、想像力を味方につけることで毎日胸をおどらせ、時には怖さや不安を味わいながら日々を過ごしていた子ども時代。
大人になってそれを失くしても、リューシカはあの頃を思い出させてくれる存在だった。
でも、私たちは本を開けばいつでもリューシカと出会える……といったら、リューシカはどんな空想を繰り広げるのだろうか。
あ、「糞先生」はこの先も変わらず健在かと思われます。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。