今回紹介するのは、『グッドナイト、アイラブユー』
『グッドナイト、アイラブユー』第2巻
たらちねジョン KADOKAWA ¥650+税
(2015年12月12日発売)
「自分探しの旅」なんて言葉は、現代では揶揄の意味合いが強いのではないだろうか。
そんな意識をどこか持ちつつ、『グッドナイト、アイラブユー』のページを進めていった。1話読んだだけでそんな考えはどこへやら。
家族や友人といったつながりと彼らのなかにあるもの、自分自身への発見をもたらす旅を正面から描いたこのマンガは間違いなく心動かされる作品だ。
たらちねジョンの『グッドナイト、アイラブユー』はサイトオープン直後から強い存在感を放つ「Comic it」に掲載されている。
幼いころに父と兄が家を出て、母と自分だけで暮らしてきた大学生の遠藤大空。ひとりで母を看取ったあと、彼女の遺言に従って久々に再会した兄とともにイギリスへ向かうことに。
そこで大空は、家族の真実や想いと向きあうことになる。
ロンドン、パリ、アムステルダム……と舞台は跳ねるようなスピードで変わっていく。
著者が取材旅行をもとに描いたこともあり、街並みや建造物、インテリアの一つひとつが繊細に描かれともに旅をしているかのような気持ちに。
大空は不器用で内向的な性格。押しこめる気持ちと戦いながら、ゆっくりと家族と向きあっていく。
旅をしながら成長していく姿に加え、このマンガで魅力なのは光の描き方。
屋内、屋外、朝、夜、そして国ごとの光。それぞれの光に注目してほしい。
コマのなかに日本のものでない空気が漂っていて、現地の空気を一緒に吸っているような感覚になる。
成長する主人公とそれぞれの想い。細かな描写と光と空気による臨場感。
これぞマンガだ。
<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
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