『男たちの好日 ―もう一つの経済創世記・牧玲睦物語』第1巻
ながいのりあき 新潮社 \505+税
3月22日は小説家・城山三郎の命日である(2007年没)。
城山三郎は経済小説のパイオニアであり、その業績が評価されて2002年には朝日賞が贈られている。
『落日燃ゆ』(吉川英治文学賞)や『男子の本懐』、『官僚たちの夏』など多数の著作があり、2014年には角川文化振興財団により「城山三郎賞」が創設された。
ながいのりあき『男たちの好日』は、城山三郎の同名小説を原作とするマンガ作品である。
原作小説の舞台は明治から昭和初期の日本。主人公・牧玲睦(まきれいぼく)は電気化学工業を興して「国の柱」になろうと志す。森コンツェルンの創始者・森矗昶(もりのぶてる)をモデルにした経済小説であり、主人公の活躍を通じて「男にとっての好き日」とは何かを読者に問いかける。
マンガ版は、大筋では原作に沿っている。牧玲睦は千葉・外房の漁村に生まれ、家業はかじめ焼き(昆布を乾燥させ、あぶり焼いて沃度(ヨード)灰を作る)を営む。かじめ事業、ヨード工場の建設、ダム建設など牧玲睦の一代記が紡がれていくが、ディテールや登場人物を大きくアレンジしているのが特徴。というよりも、その大胆なアレンジっぷり、完全に“どうかしてる”(誉め言葉)。
主人公の母親が牧玲睦を説教したり叱咤するときは、なぜかフライングボディプレスやアルゼンチンバックブリーカーやコブラツイストといったプロレス技を繰り出すし、難題が起きたときはことごとくかじめ焼きが解決してくれるし、「西洋スーツ男」というマンガ・オリジナルのライバルも登場。
この「西洋スーツ男」がなかなか強烈なキャラで、玲睦に敗れたあとに再登場したときには「ヨードの敵はダムで討ってやる!」との熱い名言を残した。
背景に山を描くシーンに木で「かじめ」の文字を忍ばせたり、遊び心もタップリ。
こうした“どうかしてる”ハジケっぷりは、ネット黎明期に大流行した「フォントいじり系サイト」で大ブレイクし、一部にカルト的な人気を博したのである。
経済小説をそのままマンガ化しても内容が難しいというか、とっつきにくいイメージを抱かれがちだが、少年マンガ風の対決主義的な味付けによって、気楽に楽しめるエンタテインメント作品に仕上がったのは事実。
かつて『がんばれ!キッカーズ』で一世を風靡した作者特有の熱血マンガ・テイストが、アレンジの方向性とマッチし、ある種のファンタジーアが発生した快作であった。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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