日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『一杯の珈琲から』
『一杯の珈琲から シリーズ 小さな喫茶店』
山川直人 KADOKAWA ¥680+税
(2015年9月26日発売)
マンガ読みのみならず、珈琲~読書好きからも絶大な支持を集めた名作『コーヒーもう一杯』の番外編となる短編集。
『コーヒーもう一杯』は珈琲がキーワードで物語の舞台はさまざまだったが、こちらはタイトルどおり、小さな喫茶店を舞台に一杯の珈琲のごとく、甘くほろ苦い物語たちが綴られてゆく。
西岸良平か、はたまた畑中純を彷彿させる、ノスタルジックで朴訥とした版画のようなタッチの絵。
愛らしくも不器用な人々が繰り広げる、シュールでせつないストーリー。あたたかな湯気のむこう側に、だれしも身におぼえがある人生の悲哀がそっと浮かび上がる。
「うれしいような 悲しいような…………」なんとも着地しようがない宙ぶらりんの思いを残したまま、幕を閉じるエンディングも秀逸。
「あまった幸せ」「匿名希望」「輝く職場」「夢の切れはし」といったタイトルも、ロックの名曲のように想像力をかきたてる。
『コーヒーもう一杯』シリーズ同様、セキネシンイチ制作室によるスタイリッシュな装幀も最高。
英字タイトルの扉絵なんぞ、アメリカのオルタナティブコミックを彷彿させる味わいで、この人、海外で絶対ウケそうだよなあ……なんて。
ゆっくり地味に細く長くでいいので、今後も続けて読んでいきたい、宝物のようなシリーズだ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69