日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『鉄民』
『鉄民』第2巻
菅原敬太 双葉社 ¥600+税
(2015年9月28日発売)
自分はもしかしたら、自分じゃないかもしれない。
映画『マトリックス』や『トゥルーマン・ショー』などで描かれる、自己認識が崩壊する恐怖。この題材はマンガでも普遍的。
現実でも、だれかによって人生が操られているのでは? という感覚に一度襲われると、なかなか抜け出せない。
滝沢実絽(たきざわ・みろ)は弓道部の少女。ある日“自分が人間ではない”ということに気づく。
彼女が住む離島には「鉄民」と呼ばれる、自律型アンドロイドが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している。鉄民の外見は、島民をモデルにしている。もととなった島民と入れ替わり、人になりすまして過ごすことで、鉄民はその存在を隠しており、人間側には、まったく気づかれていない。
そんななかで実絽は、自分が鉄民だという記憶を失い、人間だと思いこんで暮らしていた。これは鉄民側からしたら、バグだ。
実絽は、徹底して閉じた空間に置かれている。
まずは島であること。外側にいっさい逃げることができない。まただれが人間で、だれが鉄民なのかを外見で判断することはできないから、助けを求めることもできない。
また鉄民にかかわったものは、鉄民から追われるようになる、というのもいやらしい。
だれかを鉄民から守ろうとした場合、逆に自身が鉄民に襲われる可能性が上がる。
そして自分が鉄民ならば、本物の「滝沢実絽」がどこかにいるということになる。
しかし本物がどこにいるかはさっぱりわからないし、現れたら自分はどうするべきか見当もつかない。
自分が「鉄民」だとわかってしまった時点で、彼女は八方ふさがりだ。
第2巻では鉄民にまつわる事実や、その見分け方が続々と描かれる。ある程度は、鉄民に襲われた場合の対処策も見えてきた。
でも一番の恐怖は、“襲われること”ではない。
自分が鉄民であるかぎり、記憶は“捏造されたもの”で、事実ではない、ということだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」