ドラマ化もされた大ヒットコミック『花のズボラ飯』で輝かしくデビューした水沢悦子先生。新境地となるほのぼの異世界ショート『ヤコとポコ』も絶好調! 謎多き漫画家として知られる水沢先生に漫画家としてのルーツや作画法、ポリシーなどを直撃しました。秘密のベールははがされるのか!?
漫画家マンガとテレビ番組『漫勉』が 仮想上の師匠!?
――影響を受けたと思うマンガはなんですか?
水沢 漫画家を目指したのは『ドラゴンボール』(鳥山明)との出会いからです。本当に毎週楽しみにしていました。絵の模写も多少はしてたと思います。『Papa told me』(榛野なな恵)[注1]も好きです。あのかわいい雰囲気に憧れています。あと『こっちむいて!みい子』(おのえりこ)[注2]も。すごく丁寧で尊敬します。それから「心を鍛えてもらった」と思える作品では『編集王』(土田世紀)の存在が大きいですね。『いつでも夢を』(原秀則)[注3]も同時期に読んでいました。
――どちらもアツい漫画家マンガの名作ですね!
水沢 漫画家を目指している途中であの2作品を読んだのはすごく勉強になりましたし、今の自分の考え方に影響しています。アシスタント経験がなく、師匠も先輩の作家さんもいないので、こういう作品から「ありがたいお言葉」をいただく感じです。
――そういえば『花のズボラ飯』と『ヤコとポコ』ではタッチが異なりますが、どんな画材を使っていますか?
水沢 デビューした頃は全部アナログで描いていましたが、『花のズボラ飯』の途中から全部パソコンで描いてます。タッチの違いはツールや筆圧の設定を変えたりしてるだけです。1年くらい前にテレビ番組の『浦沢直樹の漫勉』[注4]を見て、下絵だけアナログで描くようになりました。でも、やっぱりペン入れはもうアナログには戻れないな、と強く感じていて……アナログで描いてる作家さんへの尊敬がすごいです。最近あの番組に影響されすぎでなんだか恥ずかしいです。現在、モノクロはコミックスタジオ[注5]で、カラーはクリップスタジオ[注6]を使ってるんですけど、クリスタの「ミリペン」がすごくいい感じなのでこれで描きたいと思ってるんです。早いとこ全部クリスタで描けるようにがんばります。
――ヤコ、ポコ以外で特に気に入っているキャラクターは?
水沢 オリーブ先生とロダンかな……ちなみにオリーブ先生とロダンは『編集王』の「マンボ好塚先生と仙台さん」を少し意識しています。マンボ好塚編は一番好きなんです。
――人気漫画家と、そのよき理解者という立ち位置ですね。
水沢 それから、地味に好きなのは編集部にいる「汁畑さん」です。
――あ、ヤコが担当の金村さんと打ち合わせしているときに「ちゃー(茶)いります?」って声をかけてくる編集部員さんですね。
水沢 なんか素直でいいやつっぽいので。人物の名前に「色」を入れたいと思って名前を決めてるのですが、「シルバー」をむりやり「汁畑」にしちゃってるので変な苗字にしちゃってごめんね、みたいな愛着が沸いています。汁畑さんは髪型がなんだかすごく描きにくいです。
「自分にしか描けない作品を描いている」 という自負を大切にしています
――2巻で特に気に入っているエピソード、あるいは描きたかったエピソードは?
水沢 オリーブ先生とロダンの話はキャラを考えた時からずっと温めていた話なので、無事に描けてよかったです。
――ヤコとポコのそれとはまた違う、2人の関係性が伝わってきました!
水沢 あとは15話のヤコがピグマ書店に行く話が気に入っています。この作品で絶対に言いたかった「距離感」の話です。オリーブ先生のフェアをおススメされたヤコのイラっとした表情も描けてよかったですし。
――どの話にもさりげなくグッとくるシーンがありますが、特に17話のラスト、ヤコが「健康だけでいいよポコ」というシーンが大好きです。あえて眠っているポコにささやくというところがヤコらしくもあり、たまりません。
水沢 あれは……寝てる時しか言わないですよ、絶対。ヤコはそんなこと素直に言わないでしょう。17話はちょうど5月の掲載だったので、とにかく「こいのぼり」のネタで見開きをやりたくて。こいのぼりのことを調べたら「男児の出世と健康」を願っているとわかったので、たまたまああいう台詞が言えたのです。気に入っていただけてうれしいです。
――『ヤコとポコ』の動物ロボットたちそれぞれ、ファンシーなキャラクターとしても独立した魅力がありますよね。これまでに夢中になったキャラクターってありますか?
水沢 かわいいキャラはそこそこ好きですが、グッズを集めたりするほどではなかった気がします。あえてひとつ挙げるなら、今、机の上に「超合金ハローキティ」が置いてあるんですけど……これはキティちゃんがかわいいから大好き、というよりも「仕事に貪欲なキティちゃん」を尊敬して置いてます。“貪欲さの象徴”として見習いたいですね。全然答えになってないですけど。
――作品を描くうえで意識していることはなんですか?
水沢 「自分にしか描けないものを描いてる!」と思いこむのを大事にしています。やっぱり思いこみは大切なので。意識しているのは「お金を払ってこのマンガを買ってもらう」「自分は褒めてもらうためにマンガを描いてる」ということを素直に認めながら描くとか。そんな感じです。
――その姿勢は作中のヤコの姿と重なるところがありますね。いつか挑戦してみたいジャンル、描いてみたい作品は?
水沢 ヤコポコの絵柄で『ドラゴンボール』みたいなやつを描けたらいいなとぼんやり考えています。あのロボットたちをカッコよくかわいく戦わせたいです。あと、昔からエッセイマンガにも憧れていますが、まだちょっと難しそうです。
――この作品を通して伝えたいと思うのはどんなことでしょうか。
水沢 あなたの「ポコ」を大切にしていこうぜ、みたいな感じでしょうか。なにも言わなくても作品を読んで伝わるのが一番いいんですけども。
――最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
水沢 単行本が出るペースが遅くて申し訳ないですが、今後ともよろしくお願いします。『ヤコとポコ』2巻の続きは、発売中の「エレガンスイブ」12月号(10月26日発売)と、1月号(11月26日発売)で読めます。2号連続掲載です!
- 注1 『Papa told me』(榛野なな恵) 月刊マンガ雑誌「ヤングユー」(集英社)にて1987年から不定期連載されていた少女マンガで、テレビドラマ化、ドラマCD化もされるなど人気を集めた。現在、月刊少女マンガ誌「Cocohana」(集英社)にて不定期連載中。小学生の女の子、的場知世(ちせ)は幼い頃に母親と死別し、父親で作家の的場信吉と2人暮らし。父子家庭ながら自由で創造的な家庭を目指す2人の日常と周囲の人々を描いた名作。
- 注2 『こっちむいて!みい子』(おのえりこ) 月刊少女マンガ誌「ちゃお」(小学館)にて1995年から連載され、現在も連載中の少女マンガ。主人公の小学5年生の女の子、山田みい子と個性的なキャラクターがおくるアットホームコメディ。
- 注3 『いつでも夢を』(原秀則) 「ヤングサンデー」(小学館)にて1994年から97年まで連載された青春漫画家マンガ。さえない高校生、多田野一郎が漫画家を目指し、ライバルや編集者などとの出会いや別れを通して一人前の漫画家になるまでをアツく描く。
- 注4 『浦沢直樹の漫勉』 NHKのEテレで放送中のドキュメンタリー番組で、漫画家・浦沢直樹がプレゼンターとなり日本の一流漫画家たちの仕事現場に密着し、作品づくりの過程を追う大好評シリーズ。シーズン0は2014年11月9日に放送、シーズン1は2015年9月4日から25日まで、シーズン2は2016年3月放送予定。これまで登場した漫画家は、かわぐちかいじ、山下和美、東村アキコ、藤田和日郎、浅野いにお、さいとう・たかを、と超豪華。
- 注5 コミックスタジオ 株式会社セルシスのマンガ原稿制作ソフト。略称は「コミスタ」。ネーム、ペン入れ、スクリーントーン貼り、セリフの入力などマンガ制作過程のすべてをデジタルで再現できるのが特徴。2015年6月30日に販売は終了。後継は「クリップスタジオペイント」。
- 注6 クリップスタジオ 正式名称は「クリップスタジオペイント」。株式会社セルシスによるマンガ原稿制作ソフトで、「コミックスタジオ」の後継にあたる。