日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『同居人はひざ、時々、頭のうえ。』
『同居人はひざ、時々、頭のうえ。』第1巻
みなつき(作) 二ツ家あす(画) ほるぷ出版 ¥570+税
(2015年10月15日発売)
自分の想像を邪魔されるのが嫌いな、偏屈な性格のミステリー作家の朏素晴(みかづき・すばる)。素晴は両親の墓参りで1匹の野良猫と出会い「ネタが来た!」と大喜びして連れて帰る。
猫の行動に「スパイ活動」「仲間への合図」など想像力を膨らませ小説のネタにしていた……が、だんだん猫がなぜそういった行動に走るのか理解できず「関わるとろくなことがない」と考える。
一方で物語は、素晴に拾われてきた猫・ハルの視点でも進む。
食べものをくれるからとりあえずここにいる……という猫視点も描かれ、出会ったばかりの素晴とは距離を置いているが、じつは人慣れしている。
ちなみに、ハルのすごいところは元野良猫ながら壁で爪を研いだり粗相をしないこと。猫飼いからすれば、これはもうとにかくすばらしいことなのに、素晴は自分から猫の生態を調べようとしないのでそれに気づくのはまだ先だろう。
モッタイナイ! このおりこうさんなハルを飼いたい!
このひとりと1匹は基本的に、相手への想像で動いている。お互いの言葉が通じない以上は、ただ相手を見て、膨らませた想像をもとに関わっていくしかない。
そういう意味ではずっとお互いに平行線であり、正解はわからないままだ。
このマンガを読んでいて思い出すのは、筆者が猫を飼い始めた時のこと。
今でこそ猫の表情というものがわかるようになったけれど、初めて猫との生活をスタートさせた時は何を考えているか今ほどハッキリとはわからなかった。
語弊はあるかもしれないが、どこかロボットのような、ぬいぐるみのような、生命はあるけれど本能に従ってのみ生きる、そこに感情や思考があるのかわからないもふもふとした生命体だった。
素晴が体験しているように、猫の行動に想像を膨らませながらその生命体と対峙してはや9年、今では足音だけでゴキゲンかそうでないかわかる。
素晴は不器用ながらも想像をめぐらせながらハルと向きあっている。意思が通じているか正解はわからなかったとしても、めぐらせているうちにどこかお互いの心地よい地点にたどり着くはず。
人間同士でも同じこと。それは孤独なことではなく、人生をいい方向に導いてくれると教えてくれる作品だ。
<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
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