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11月29日は勝新太郎(俳優)の誕生日 『座頭市』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/11/29


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

11月29日は勝新太郎の誕生日。本日読むべきマンガは……。


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『レジェンドコミックシリーズ3 座頭市』
平田弘史 星雲社 ¥1,600+税


本日は、「勝新」こと俳優・勝新太郎の誕生日である。
1931年生まれの勝は、20代前半で大映の二枚目俳優としてデビュー、主演作が不評続きだった時期を挟んで1960年に『不知火検校』でブレイクした。
「金のために非道を重ねて成りあがり、やがて破滅する按摩」を演じた“やくざ”な芝居は大映の金脈となり、以降、勝は『悪名』『兵隊やくざ』等の成功を経て大物俳優の地位を築く。

その勝の代表作が、そう、『座頭市』だ。
博打と酒が大好きで、もめごとは嫌い、だがどうにも見すごせぬ悪党は仕込み杖でズバズバ斬りたおす盲目の侠客・市。
この異色ヒーローが活躍する時代活劇は映画26本にテレビ版全4期、さらに舞台演劇もあわせて大量に作られた。

『座頭市』は、子母澤寛の短編小説が原作だが、映画は人物像がほぼオリジナル化しており、“勝新太郎が演じる座頭市”自体が強固なキャラクターの基盤となっている。
『座頭市』に影響された、またはリメイクした派生作がしばしば作られてきたが、どれも勝新太郎を起点に、そこへ重ねるか、あえて外すかという選択の問題になっている。

このイメージは、マンガにも食いこんでいる。
近ごろで知名度が高いのは、『ONE PIECE』に出てくる海軍大将「藤虎」。
まさにあれこそ、“勝新太郎が演じる座頭市”という単位がキャラクターに説得力を与える例だ。

さて、そろそろ本題に入ろう。
じつは、モデルどころか、勝新『座頭市』を直接マンガ化した作品が存在する。

1966年、映画『座頭市』第13作目『座頭市の歌が聞える』と14作目『座頭市海を渡る』が公開、同じ年に雑誌「週刊少年キング」に14作目のコミカライズが掲載。
さらに翌1967年には13作目もマンガ化され、2作まとめて朝日ソノラマから単行本が出版された。
これが、一目見ておわかりのとおり、まんま勝新モデルなのである。

著者は、『薩摩義士伝』はじめ泥くさいすごみに満ちた時代劇画で知られる鬼才・平田弘史先生。
当時は劇画がブームになるかどうかの過渡期で、この『座頭市』はジャンルにとっても作家個人にとってもひとつの大きな足がかりとなった。

平田マンガ版と原作映画を見比べると、映画にあった男女関係のドロっとした部分がマンガではばっさり削られていることに気づく。
子どもが読むからという配慮もあるだろうが、社会的弱者でありながら暴力的強者でもある座頭市の複雑な生き方を問うドラマに、甘いロマンスはノイズになるという判断でもあったようだ(2004年の復刻版に収録の著者インタビュー参照)。うーん潔い。

結果、マンガ版『歌が聞える』では暴力の連鎖に生きる市をヒーローとあがめて憧れてくる男の子を、また『海を渡る』では市を家族の仇だと憎悪してくる男の子を中心軸にしてそれぞれにケジメをつけという、シビアな意味で「少年に向けた」筋が浮き上がっている。
そんな重たさを、勝新太郎モデルの「いい顔つき」が逃げずにどっしり受け止める、このビジュアル。見惚れますねえ。

また、活劇の見どころである殺陣は、効果線やコマ割りの縦長・横長を活かしてスピード感と構図のキメ具合を引き立てる演出が目をひく。
映画に引けをとらないカッコよさではあるのだけれど、マンガならではの工夫ゆえなので、単純に映画的な表現とはいえないあたりがポイントだ。

“マンガの“勝新太郎の座頭市”が最大限に楽しめる本作。おすすめです。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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