日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』
『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』第5巻
大西巷一 双葉社 ¥620+税
(2015年11月12日発売)
15世紀初頭にキリスト教改革派フス派と、カトリックの十字軍とが戦ったフス戦争。
フス派の軍事的指導者ヤン・ジシュカが戦場に投入した秘密兵器は、その後の歴史を決定的に変えることになる――すなわち銃である。
ただの農民が訓練された騎士を倒すことを可能にした新兵器……だが見かたを変えればそれは、引金さえひければだれでも……たとえ幼い少女であっても兵士になれる、ということだった……。
大西巷一がシャールカというひとりの少女の目を通じて、中世ヨーロッパを描く『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』。 綿密な考証のもとに描かれた中世のヨーロッパのリアルな戦争を読むと、やっぱり「戦争はいけねーなー」とか「中世ヨーロッパとか死んでも生まれたくねーなー」と平和を祈る心をよりいっそう新たにするわけですが、他方で、可憐な女の子があれこれひどい目に合う姿というのは、やはりグッとくるものがあり、複雑な気持ちを抱かせてくれるマンガ。
さて、大人たちに混ざって銃を撃ったり、ペストの脅威に直面したり、籠城戦で餓死しかけたりと突撃レポーターのごとく戦渦のなかへ突っこんでは毎度毎度死ぬような目にあっているシャールカちゃんだが、第5巻となる今回突撃するのは衣服を否定し、性愛の悦びのなかに真理を求めるカルト。……いや、シャールカちゃん、ちょっと度胸ありすぎだと思います。
というわけで本巻は全編、裸、裸、裸。露出、乱交、同性愛、「アヌスでの交わりだから大丈夫」とか「あ! これ、この前エロマンガで読んだヤツだ!」みたいなセリフも頻出します。……なんだろう、サービス巻?
しかしながらこのカルト教団ことアダム派というのは実在した集団だったそうで、事実は小説より奇なり、という言葉をかみしめるばかり。
しかしながら、そんな彼らはやがて(当然と言うべきか……)フス派の異端として攻撃されることに。
異端者として迫害されて団結したはずのフス派が、自分たちの仲間を異端と呼んで火あぶりにする……なんとも救われない連鎖を描く巻でもありました。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas