日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『封神演義』
『集英社文庫 封神演義』第1巻
藤崎竜 集英社 ¥730+税
(2015年11月18日発売)
この秋、田中芳樹原作のSF大河小説『銀河英雄伝説』を再びマンガ化して話題となっている藤崎竜。
デビュー25周年の今年、90年代後半に人気を博した往年の代表作が文庫版になって登場だ。
時は約3000年前の中国、殷王朝末期の混乱を舞台に、狐の妖怪仙人・妲己(だっき)は皇帝を籠絡し、我が世の春を謳歌していた。その悪行を阻止すべく、仙界から派遣された道士・太公望(たいこうぼう)が立ちむかう。
太公望は緒戦で一気に解決すべく、まっさきに妲己を倒す算段をするが、相手の強大な力に失敗。みずからもまた味方勢力を作る必要を悟るのだが……。
登場人物の多くは仙人もしくは道士という術士。「宝貝(パオペエ)」と呼ばれる特殊武具を使って戦う彼らの、少年ジャンプ作品らしいバトルが大きな見どころだ。
主人公の太公望は、史実では殷滅亡後の周王朝の軍師として名を馳せ、実力は折り紙つきだが、マンガではやる気があるのかないのかわからないノリで、もっぱら心理戦で相手を翻弄するタイプ。
一方、妲己は史実でも希代の悪女と呼ばれた人物だけあって、私利私欲のため悪逆の限りを尽くす。一見華奢な美女なのだが、戦闘力は絶大、おまけに配下に多くの仙人を率いるボスキャラの見本のような人物である。
そんな2人を中心に、それぞれの陣営に分かれた登場人物や、太公望のツッコミ担当も務める霊獣・四不象(スープーシャン)といったコミカルな風体のキャラたちが繰り広げる物語に魅了されたファンは多いはず。
原作は明の時代に登場したファンタジー小説だが、この原作をより大胆に現代風な言葉づかいや衣装、武器などで味つけし、パラレルワールド的視点を取り入れ、かつギャグやバトル要素もふんだんに取りいれた内容は、今読みかえしてもすばらしい。再び手に取る人はもちろん、初めて本作に出合う人にも、隅々まで堪能してほしい。
<文・沼田理(東京03製作)>
マンガにアニメ、ゲームやミリタリー系などサブカルネタを中心に、趣味と実益を兼ねた業務を行う編集ライター。