日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『甲組の徹』
『甲組の徹 ~庫内手・機関助士編~』
池田邦彦 講談社 ¥660+税
(2015年11月20日発売)
戦時下の昭和16年春、蒸気機関車を愛する西条徹男(さいじょう・てつお)は、機関士……それも最高の技術を持つエリート集団「甲組」となることを目指し、国鉄の門を叩く。
鉄道ライターを経て漫画家へと転身した池田邦彦が描く、昭和の蒸気機関車マンガ。
時代が時代だけにワンミスで鉄拳制裁が飛んでくるのはあたりまえ、それどころか列車を時間どおりに運行すべく、走ってる機関車の下に潜りこんで加熱した車軸に油を差し続ける、なんて「仕事」を命じられたりする。
もちろん一歩間違えば転落死である。今やったらブラック企業どころか普通に犯罪だろう。昔は人の命が安かったんだなぁ……と愕然とする。
くわえて戦時下ということもあって特高警察や米軍の戦闘機、そして戦況の悪化に伴う物資の欠乏や人員の決別など、様々な理不尽が徹男の前に立ちふさがる。そして幾人もの男たちが亡くなっていく。
「いい話」の一言ではとてもすませられない複雑な読後感。
しかし、かつて日本にはこのような時代が、現実にあったのだ。そんな時代の空気を、蒸気機関車にまつわる様々な逸話とともに、感じられる作品である。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas