日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『百足 -ムカデ-』

『百足 -ムカデ-』第1巻
フクイタクミ 秋田書店 ￥429+税
（2015年12月8日発売）

戦乱の時代が終わりを告げ泰平の世に移り変わる頃、人々を脅かす噂があった。
月のない夜に人里を襲い、ひと晩ですべてを喰らい尽くす“百足（ムカデ）”。それは血に飢えた百人のならず者からなる殺戮集団だった。

毒キノコにあたったところを救われた心優しき拳闘家・馬頭丸（ばとうまる）は、山から戻らぬ村娘のお泉（いず）のあとを追い、山中で“百足”の一番隊と遭遇する。
行方不明のお泉を助け出すため、一対百の血みどろの死闘が始まる……!!

「どちらが強いか」は永遠に語りつくせぬ少年マンガの大テーマ。
鬼才・フクイタクミが「別冊少年チャンピオン」に連載中の『百足 -ムカデ-』は、そのテーマに正面から挑むノンストップバイオレンスアクションだ。

たったひとりで百人の悪党を倒していく馬頭丸の闘いぶりは、オビに書かれたように「6ページごとにひとりの首が飛ぶ」すさまじさ。
馬頭丸が使う「百手無双流」は、自分が行う一手と結果を百とおり想像し死中に活を見出す実戦武術だ。いかにも脳筋タイプに見える馬頭丸ながら、じつはイマジネーションこそが肝の武術の使い手というのがおもしろい。

これだけ馬頭丸が強いと対峙する“百足”が小物に思えてしまいそうだが、濃すぎるキャラ造形の面々が惜しげもなく投入され、ザコ感は皆無だ。
太刀、大鎌、鎖分銅、鎖のついた鉄球を足技で自在に操る男、カラクリ仕掛けのパワードスーツ、殺した相手の顔の皮を剥ぎ取るコレクター、両手にカマを持つ奇怪なカマキリ男などなどなど、奇抜な技を繰り出すクセ者中のクセ者みたいな奴らが次から次へと登場し、次のコマでは死んでいく。

一番隊から十番隊まである”百足”にヒロインが見つかるかもしれないというサスペンスをさしはさみ、緊張感がとぎれることなく進んでいく。

豊かな胸と、それ以上にふくよかなお腹を持つ母性本能あふれるヒロインは過去作の『ケルベロス』や『ハーベストマーチ』にも共通するフクイ作品の定番で、『百足-ムカデ-』のヒロインお泉も貧しい山村に育ったとはとても思えないダイナマイトボディの持ち主。
過激な暴力描写と人体のクラッシュ表現も多いフクイ作品だが、どんなにヒロインにピンチが迫っても最後の最後には主人公が身を挺して助けるという一線だけは必ず守ってくれる。

不条理な暴力にさらされながらも互いの身を案じあう主人公とヒロインの関係性は裏切らない。
残虐かつ非道で、極悪かつ残忍な描写に満ちたバイオレンスさに満ちながら、きっと『百足-ムカデ-』も爽快感を与えてくれる結末へとたどりついてくれるだろう。

1巻の時点で馬頭丸が倒した“百足”は29人。
“百足”、残り71人！

＜文・秋山哲茂＞
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』（小学館）、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進！』（徳間書店）など。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士（見習い）。