日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『しんそつ七不思議』
『しんそつ七不思議』第2巻
かふん 集英社 ¥514+税
(2016年1月19日発売)
弁当容器のデザインを手がける地方の小さな支店会社「食品容器の遠州」は、近所に大型デパートができて発注が殺到し、久々の新卒採用に踏みきった!
『しんそつ七不思議』は、遠州に就職した新卒3人と、先輩社員が繰りひろげるドタバタを描いたお仕事4コマ。
先輩社員の京丸ぼたんはバブルの亡霊のようなアラサーで、仕事への熱意は低く、つもったゴミに何かが棲みつくほど机が汚い。
ダメの見本のような京丸ぼたんだが、意外と後輩の面倒見はいい。というか、普通であればトラブルメーカーであろう京丸ぼたんがツッコまざるをえないほど、新入社員たちがマイペースすぎるのだ。
採用された3人は、無気力で非常識な夜泣(よなき)きいち、比較的まともだが学生ノリが抜けきらない三土(さんど)りく、無愛想でカタブツながら打たれ弱い能満寺(のうまんじ)そてつと、扱いづらいことこのうえない。
そんな新卒3人+ダメ先輩の組みあわせなので、ツッコまれ役を入れかえながら騒がしい日常が過ぎていく。
ときにシュールなほどに振りきれた非常識な行動を見せる一方、お得意先へのあいさつまわりや社内プレゼンなど、社会人が直面する日常的な出来事もさしはさまれ、各人なりに仕事への悩みなんかも抱いたりもする。
キャラクターの行動は強烈だけど、心情的には結構共感でき、いつの間にか憎めなくなっているのに気づくはず。
2巻には夜泣の「就活編」が収録され、意外とシリアスな過去話が明かされる。
新卒3人も少しだけ仕事に慣れ、なんと夜泣が新規仕事を開拓してくるなど成長も目覚しい!?
4人のやりとりをいつでも笑顔で受けとめたり受け流す支店長・幻池(げんち)いけべいの懐の深さは本作最大のオアシス。田中邦衛バリに濃~い幻池さんのスマイルが病みつきになります。
さらに、大手お得意先デパート・大蛇屋の社長令嬢にして夜泣の幼なじみ・大蛇さくらが夜泣への私怨をつのらせ大混乱必至!?
あいかわらずツッコミどころ満載のまま、会社業務はノンストップで進行中。遠州の今後からますます目が離せない!
ところで、夜泣、能満寺、幻池と変わった名前が多いのもこのまんがの特徴で、じつはメインとなる登場人物の名前は「遠州七不思議」から取られている。つまり「食品容器の遠州」は静岡県西部あたりにあるってことですかね。
夜泣きいちは「夜泣き石」、京丸ぼたんは「京丸牡丹」、三土りくは「三度栗」、能満寺そてつは「能満寺のソテツ」、幻池いけべいは「池の平の幻の池」、大蛇さくらは「桜ヶ池の大蛇」、片葉あつしは「片葉の葦」、夜泣さよは「小夜の中山」、天狗ひのまるは「天狗の火」といった具合。
「すでに9人もいて七不思議じゃないのでは?」と疑問に思う方も多いことでしょうが、「遠州七不思議」は数えていくと100を越えるほどあるそうで、それも不思議のひとつ。
新キャラが登場するたびに元ネタの七不思議を探すのも、本作のオツな楽しみ方なのではないでしょうか。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。