日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『陸奥A子ベストセレクション エイティーズ』
『陸奥A子ベストセレクション エイティーズ』
陸奥A子 河出書房新社 ¥1,900+税
(2015年12月16日発売)
70~80年代、「りぼん」において爆発的人気を博した「おとめちっく」マンガ。
その代表的な作家である陸奥A子の作品がこうして復刻されるのはなんとも喜ばしいかぎり。
ヒロインはどこにでもいそうな女の子、大事件に巻きこまれたりするわけでもないのだけど……どの作品も深く心に染みいるのは、だれもが経験するような日常の小さな事柄に対して、登場人物の心のひだが丹念に描きこまれていているためだろう。
本書に収録されている『きのうみた夢』のヒロイン・雛は、中学時代の同級生・日産(ひうぶ)くんのことがずっと気になっている。
だが、彼のことを好きだと公言している女の子がいて……しかも、彼女はちょっと目立つかわいい女の子だから、自分の出る幕はないと諦めているのだ。
高校生になって学校が別々になっても彼のことをときどき思い出してしまうけれど。
こんなふうに「おとめちっく」マンガのヒロインは、ライバルと正面きって戦ったりしない。
でも、決してウジウジしたりしているわけじゃなく……かぎりなく私たちのリアルに近いヒロイン像だからこそ、陸奥A子の作品は大きな共感を呼んだのだ。
本書には「きのうみた夢」ほか、80年代の代表作「粉雪ポルカ」、「こんぺい荘のフランソワ」が収録されているが、ヒロインたちは決して待っているだけの性格ではない。
心にめばえた、気になる人への気持ちにゆっくりと向きあい、そのタイミングが来たとき、自分のなかではっきりとした答えが出たときには勇気を出してアプローチする。そんな姿勢にはむしろ凛とした強さを感じるのだ。
おっと、もうひとつ「おとめちっく」マンガの特徴として忘れてはならないのが、ファッションや髪型のみならず、持ちものやインテリア一つひとつのかわいらしさだ。
クッションやカーテンの柄の描きこみ、車の形のルームプレート、ベッドの柱にさり気なくかけられたポシェット……部屋でひとり楽しむ夜のティータイムの場面では仲よしの友だちのようにぬいぐるみたちが座っていたり。
すみずみまでじっくりと味わえるA5判サイズ。
『陸奥A子ベストセレクション』、『陸奥A子ベストセレクション セブンティーズ』もぜひ併読を!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」