日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『鈴木式電磁気的国土拡張機増補版』
『鈴木式電磁気的国土拡張機増補版』
粟岳高弘 駒草出版 ¥925+税
(2016年2月1日発売)
粟岳作品は、とても難しい。空間の考え方や斥力など、かなり濃度の高いSFを、ルイス・キャロルの言葉遊びのように組みあげているからだ。
粟岳作品は、とてもわかりやすい。1980年代、昭和末期、夏。とある田舎。セーラー服、スクール水着、ふんどし、腰ミノ姿の女の子が、右往左往する。これだけおさえておけば、120パーセント楽しめるからだ。
すごくざっくり言うと、「田舎の町の、行ったことのない場所は、どこかにつながっているのかもしれない」という、中高生が抱えるフシギを形にした作品集。
町のあちこちに、どこだかわからない空間につながっている。
出てくるヒロインたちは当然、頭に「???」が浮かぶ。
特に重力。ある一定の場所までいくと、重力場が逆になり、真横に落ちていってしまうことがある。空間が異なっているからだ。
この珍妙な田舎世界を彩るのが、ヒロインの少女たちだ。
不思議な空間に居あわせた少女たちは、なかば強制的に裸にされ、腰ミノをつけさせられ、ストリーキングのように裸で道路を走らされるハメになる。
別空間の住人たちはさらに珍妙な姿。
謎の生物と、素朴な少女たち。特別重大な事件に巻きこまれるわけでもない。
時間は80年代の夏で止まったまま。携帯電話はなく、流れてくるのはラジカセの音。女の子たちは、ちょっと困ったり笑ったりしながら、空間を行き来し始める。
SF+美少女+ノスタルジック。
著者の独自な世界観を味わうならば既刊『たぶん惑星』から読むとわかりやすい。
今回の本は、2006年に出版された本の新装版。しかしほとんど全コマ書きなおされているので、以前のコスミック版を持っている人も、あわてて捨てないように! ぜひ比較しながら読んでみてほしい。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」