365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
3月3日は金魚の日。本日読むべきマンガは……。
『すくってごらん』第1巻
大谷紀子 講談社 ¥429+税
3月3日といえばひな祭り・桃の節句だが、日本観賞魚振興会が制定した「金魚の日」でもある。
雛飾りといっしょに金魚を飾っていたから、または地方によっては人形でなく金魚を飾った、さらには金魚の初売りの時期にあわせた、などなど諸説あるとのこと。
金魚と聞くと、出目金やランチュウ、オランダシシガシラといった品種改良された観賞用のイメージもわくが、それよりもまず、日本人が思い浮かべるのはやはり「金魚すくい」ではないか?
夏祭りの一風景として描かれても、金魚すくいそのものを題材にしたマンガというのはありそうでなかったところ、『すくってごらん』が世界初となった。
当サイトで連載されている『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』も絶好調な、大谷紀子先生の作品だ。
その美麗な筆致で描かれる情景にもご注目。
金魚すくいに使われる「小赤」は売りものにならない和金(もっとも一般的な金魚の品種)だそうだが、水のなかを群れて泳ぐ姿や、ポイ(紙製の網)から逃れようとはねる姿はなかなかに美しい。まさに雛人形に負けず劣らず、といったところだ。
元エリート銀行員でお堅い香芝誠(かしば・まこと)が、左遷されてしまい東京から奈良県大和郡山市にやってきた。ここは暑さも寒さも厳しい盆地、そして金魚の名産地でもある。
当初は新しい環境を嫌っていた香芝だが、金魚店店長の王寺(おうじ)の誘いをきっかけに、ひと目ぼれした和風美女・生駒吉乃(いこま・よしの)への熱意や持ち前の研究熱心な性格も手伝って、スポーツにも似た金魚すくいの世界にのめりこんでいく。
マンガと同様に、大和郡山市では実際に夏に金魚すくい選手権も開催されており、涼しくも熱い戦いが繰り広げられているという。
屋台で遊ぶ時にも使えそうなテクニックも満載だ(とはいえ実戦あるのみ、だが)。
香芝は、金魚すくいを通じて、はぐれたり行きどころがなくなったりしている者を「救う」との意味を見い出す。
3月は別れの季節でもありなんとなくものさびしい時期だが、新しい場所でも打ちこめるものが見つかれば、きっと人の輪に入れて“救われる”。そんな明るい希望も持てるのだ。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。