日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』
『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』
渡辺俊美(作) 荒井ママレ(画) 小学館 ¥552+税
(2016年2月12日発売)
本作は、TOKYO No.1 SOUL SETなどで活躍するミュージシャン・渡辺俊美による同名の大人気エッセイのコミカライズ版だ。
渡辺は、ひとり息子のトーイくんと2人暮らし。
高校入試に失敗し、1年の浪人を経て進学を決めたトーイが「3年間1日も休まないようにする」と宣言した心意気にこたえ、父は3年間毎日弁当をつくることを約束したのだ!
1日も休まず弁当をつくり続けることがどんなにたいへんか。しかも日常的に全国を駆けまわるようなミュージシャンにそれが可能なのか、と心配になってしまうが……渡辺はそれをやりとげてしまう。
週末は家を開けがちで、ともすればコミュニケーションが少なくなる息子への愛情を「“形”として表せるのは、とても幸せなことだと思う。」と渡辺は語るのだ。
そして、ブログでも公開され話題になったというその弁当のおいしそうなこと!
栄養バランス、彩りにこだわり、詰め方までも美しい。それでいて予算は1日300円、調理は40分以内などルールも決めている。
トーイが大好きな卵焼きは毎日入れる定番なのだが、明太子入り、生姜昆布入り、セリ入りなどバリエーション豊か。参考になるレシピがいっぱいだ。
音楽、お笑い、ゲームなど共通の趣味も多い仲よしの父子。
とはいえ怒るべき時はしっかり怒る父を、息子は人生の先輩として信頼し尊敬している。
じつに理想的な関係だけれど、単にうらやましがるだけでは失礼だと思い至らされる。いろいろなことをていねいに一つひとつ積み上げてきたから……“弁当”でいえばつくる側も食べる側も相手を想いあってきたからこそ、そんな親子でいられるのだと。
渡辺の出身地・福島への想い、復興を応援する活動を描いたくだりは、原作本にはなかった本作オリジナルエピソード。
『おもいでだま』の荒井ママレが描き出す父と息子のほほえましい日常のやりとりはじつに生き生きとして、いつまでもながめていたい幸福感をもたらしてくれる。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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