『CROSS GAME クロスゲーム』第1巻
あだち充 小学館 \900
(2014年6月12日発売)
80年代の『タッチ』、90年代の『H2』に続く、2000年代におけるあだち充の野球×ラブコメ作品が、描き下ろしカバーイラストを用いた新装ワイド版で登場。
3歳の頃からバッティングセンターでバットを振っていた少年・樹多村光と、幼なじみの月島4姉妹を中心とした本作は、光たちの小学生時代を描く第1部「若葉の季節」から始まる。
生まれた年も、生まれた日も、産まれた病院も光と同じで、大人になったら結婚すると決めている月島若葉と光との、多幸感あふれる日々。
しかしある夏の日、物語は一転悲劇へ。ヒロインは若葉の妹・青葉へとバトンタッチされることになる。
あだち充の代表作『タッチ』は、軽妙なラブコメ作品だが、主人公である上杉達也が、事故死した弟・和也の夢を引き継ぎ、甲子園とヒロインの朝倉南を引き受けることで、その喪失を乗り越えていくまでの姿が描かれる。
それからおよそ20年を経た2005年から連載が始まった本作は、やはり『タッチ』と同様、「死」が主軸の作品だ。
だが『クロスゲーム』は、光が「日本一のピッチャーだって夢じゃない」という若葉の予言を引き継ぐ一方で、青葉は若葉の「(光を)奪っちゃダメだからね」という呪縛を引き受けるという、より複雑な喪失と再生を描いている。
こうした重いテーマを扱いながら、読み口自体はあくまで少年マンガらしく、軽快で爽やか。
まさに「あだち節の真骨頂」というべき、文句なしの傑作だ。
<文・小林聖>
主にマンガについての記事などを手がけるフリーライター。マンガ情報サイト・ネルヤ主催。年間だいたい1000冊くらいマンガを買ってます。
「nelja」