人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、東村アキコ先生!
昨年、『このマンガがすごい!2016』オンナ編に2作品同時にランクインした東村アキコ先生。前回は、第2位にランクインした『東京タラレバ娘』をメインにお話をうかがった。「まずは大衆居酒屋へ行け!」という名言も飛びだす、路頭に迷うタラレバ女子必見のインタビューとなったのである!
<インタビュー 第1弾>
東村アキコ『東京タラレバ娘』インタビュー
オサレカフェで女子会してる勘違いで臆病な悩めるタラレバ娘のお前らに告ぐ……東村先生はあなたたちの味方です☆
そして今回は、ほかの作品についてもお話をうかがった! この人がいなければ今の東村アキコはいなかったと言っても過言ではない宮崎の恩師・日高先生との大切な記憶が綴られる自伝的作品『かくかくしかじか』は、第8回マンガ大賞に続いて、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門を受賞。
インタビュー後編では名実ともに東村先生の代表作となった、その『かくかくしかじか』の話を中心に、近作の話に触れていこう。
描いていた頃は「修行」。『かくかくしかじか』執筆を経て、得たものとは?
――『このマンガがすごい!2016』オンナ編にランクインした『かくかくしかじか』は『ママはテンパリスト』に続いて描かれたエッセイ作品でしたよね。
東村 当時、週刊で『メロポンだし!』をやっていたこともあって、「ページも短いし、エッセイなら楽だな~」って理由で『かくかくしかじか』を始めたら、こんなことになってしまって。
――ここまでの反響を得たのは先生にとっても、意外だったのですね。
東村 本当に意外でした。まさかコミックスが5冊も出るとは夢にも思わなかったし。「2冊くらいかな~」と思って描きだしたら、いろいろな懺悔の気持ちがあふれてきて、止まらなくなってきて……。毎月、ワーっと吐きだすように描いたら翌月までは考えない。打ちあわせもいっさいしない。ネームすらやらないときもありました。
――ネームをやらないことも!?
東村 真っ白な原稿用紙にいきなり下絵を鉛筆で描いて、ペンも入れつつ、みたいな感じ。それくらい、直前まで考えたくなくて。あまりにも昔の自分が寒いから。でも、乗り越えたい気持ちもあって。もうみたいな感じで描いていていましたね。
――完結させた時点で、修行期間が終わったってことですか?
東村 そうですね。すごく楽になったし、やってよかったと思った。最終回を描ききったとき、心のなかのモヤモヤがサーっと晴れていった感じがして、自由になった。マンガ大賞ももらったし、これでもういいかな、と。あとは好きなものを描いて、それでコケても「『かくしか』の東村です」って言えばいいやって(笑)。描いていた時が苦しかったぶん、みそぎをすませた気分です。
新作は美食家の名探偵が主役!? 新境地での制作は……
「トリック思い浮かばねー!!(切実)」
――『かくかくしかじか』終了後は、ますますジャンルが多岐にわたっていますよね。
東村 ふっきれちゃった。
――「Cocohana」で昨年から連載が始まった『美食探偵 明智五郎』は、王道のミステリーですね。
東村 この作品はトリックを自分で考えるのが衝撃的でした。ブレーンはついていません。まあブレーンといえば、せいぜい『名探偵コナン』を全巻読んでいると豪語するアシスタントがいるくらいです(笑)。
――探偵マンガといえば、『かくかくしかじか』にも話が出てきた東村アキコの原点『探偵ぷっつん物語』が思い出されます!
東村 そうですね(笑)。30数年ぶりの探偵モノだ。『ぷっつん』は宮崎の江南小学校時代にマンガクラブで描いていたんですけど、じつはひとつ上の世代に『ONE PEACE』の尾田栄一郎先生がいたってことを、ある日ジャンプの編集さんから聞かされてびっくりしました。「東村先生って江南小学校出身ですか?」って。尾田先生も、3年くらい宮崎に住んでいた時に江南小学校に通っていたそうです。もしかしたら『ぷっつん』は尾田先生の隣で描いていたかもしれない(笑)。
――僕は「なにはともあれ一件落着」という、『ぷっつん』の決めゼリフが『美食探偵』のなかに、いつ出てくるのか気にしていたんですよ(笑)。
東村 忘れてたわー(笑)。『美食探偵』は一条ゆかり先生の『有閑倶楽部』みたいに1シリーズやって休んで、みたいなスタイルでやっていこうと考えています。そのくらいたいへんなんですよ。現場で怒号が飛び交っていますもん。「トリック考えろ~!」って。
――ネームを作るときは、トリックありきですよね。
東村 いや、まったく考えてないんですよ。とりあえず人が死ぬところから始めて、「なんで死んだのかな?」って、追っていく形ですね。
――ミステリを美食に絡めようというアイデアはどこから?
東村 とりあえず『かくしか』のあと、「すぐに連載を」という話になって、何をやろうか……って話になったときに、担当さんから「東村さん、グルメものをまだやっていないじゃないですか」ってふられたので、「私、単なるグルメマンガは描きたくないんですよ。でもグルメと“何か”なら……たとえば美食探偵みたいな」って軽い気持ちで言ったら、もうそれに決まっていたんですよ。「『美食探偵』いつやります?」って。「え!? ぜんぶ食べ物に毒を入れる話になるけど、いいの?」みたいな(笑)。
――食べ物×殺人って、そんなにバリエーションないですよね。ストーリーやトリックを考えるのが難しそうです。
東村 もう、毒入れるしかパターンがないんですよ。しかも調べたら「トリカブト」か「フグ」くらいしかないんです!
――……すぐに行き詰まりそうですね。
東村 完全に行き詰っています(笑)。
――主役の五郎にモデルはいるんですか?
東村 ベネディクト・カンバーバッチですね。ドラマの『SHERLOC(シャーロック)』にハマって、ファッションとか髪型とかカッコイイなと思って。
――モチーフは江戸川乱歩ですよね。
東村 はい、宝塚に『黒蜥蜴』[注1]が演目にあって、それが異常に好きなんですよ。だからパロディも入っています。
――『美食探偵』は宝塚が原動力でしたか。
東村 ただ、感情面は描けるんだけど、やっぱりトリックが……。トリックを考えてくれる人を募集しようかな。
- [注1]『黒蜥蜴』 江戸川乱歩の長編探偵小説。また、作中に登場する女性盗賊の俗称でもある。名探偵・明智小五郎と「美しいもの」を狙う美貌の女賊・黒蜥蜴が対決する冒険物語。舞台の黒蜥蜴役としては、美輪明宏の黒蜥蜴役が有名で、舞台化のみらなず映像化も多数なされている。