365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
5月29日は内田百閒とフランツ・バルツァーの誕生日。本日読むべきマンガは……。
『阿房列車 1号』
内田百閒(作) 一條裕子(画) 小学館 ¥1,000+税
「撮り鉄」や「乗り鉄」など、そのジャンル分けまで一般に広まった感のある鉄道ファン。いまや、地方鉄道の経営に影響を及ぼすほどの人数を抱え、かつ鉄道関連のグッズや書籍はバンバン売れるなど、その人気はとどまることを知らない。
そもそも鉄道好きの歴史はけっこう古い。もともと蒸気機関がくろがねの塊をガンガンと押し動かす様は、人々をあっという間に魅了したようだ。
日本は、江戸末期にロシア人が鉄道を持ってきて以来、イギリス人の手を借りて日本初の鉄道を敷設するなど、海外の技術力を惜しまず輸入した。
いまや当たり前の光景となった首都圏鉄道網の主要プランもまた、ドイツ人鉄道技術者フランツ・バルツァーの指導のもとつくりあげられたもの。彼はいわば「東京鉄道網の父」と言えよう。
そんな鉄道を「趣味」とする人物は、すでに明治期に「撮り鉄」が存在するなど、鉄道黎明期から存在している。
なかでも小説家の内田百閒は、目的もなく鉄道に乗るなど、純粋な鉄道ファンとして知られ、自らの体験を小説としてまとめた鉄道紀行文『阿房列車』を発表するほどだった。
そんなフランツ・バルツァーと、内田百閒は、くしくも誕生日がまったく同じ日。そう、1857年の今日5月29日はバルツァーが、1889年の今日は百閒が生まれた日なのだ。
そんな日にオススメするのは、内田百閒・原作、一條裕子・作画の『阿房列車』しかないだろう。
作画の一條裕子は、1994年に「ビッグコミックスピリッツ」で連載された『わさび』で、そのレトロ調ながらも愉快な言動を織り交ぜた作風が、コアなファンをグイグイ惹きつけた漫画家だ。
『阿房列車』の舞台は戦後直後の昭和20年代から30年代にかけて。当時の緩やかな鉄道旅の光景と、そこに介在する人々の心を表すには、一條裕子の画風以外にはない。そう思わせるほど、内田百聞の作風とマッチしているのだ。
そんな当時の鉄道旅に思いをはせつつ、この1冊を持ちこんで、鉄道旅をするのも乙ではないだろうか。
<文・沼田理(東京03製作)>
マンガにアニメ、ゲームやミリタリー系などサブカルネタを中心に、趣味と実益を兼ねた業務を行う編集ライター。