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『所得倍増伝説 疾風の勇人』第1巻 大和田秀樹 【日刊マンガガイド】

2016/06/15


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『所得倍増伝説 疾風の勇人』


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『所得倍増伝説 疾風の勇人』第1巻
大和田秀樹 講談社 ¥570+税
(2016年5月23日発売)


2014年10月にとあるアンケートサイトで実施された「日本史のなかで、どの時代が好きですか?」というアンケートで発表された「もっとも人気のある時代」は安土・桃山時代(いわゆる戦国時代)だった。
以下、江戸時代、明治時代、平安時代……と人気の時代は続くが、このなかでも時代区分では明治~昭和にあたる近・現代史、特に戦後日本史というのはどうにも人気が薄いようだ。

『ムダヅモ無き改革』『機動戦士ガンダムさん』の大和田秀樹が「モーニング」誌に初登場となる新連載『疾風の勇人』は、そんなマイナー時代・戦後にスポットを当てた意欲作だ。

物語は終戦からわずか2年後の1947年。いまだ復興ととのわざるヤミ市に、眼光鋭き偉容の男がふらりとおとずれたことから始まる。
男の名は池田勇人(いけだ・はやと)。ブロガーでも競輪選手でもなく大蔵省(現・財務省)の次官で、「税金の鬼」と呼ばれた男だ。この日のミッションはヤミ市の強制捜査で、広島出身の勇人は70年代ヤクザ映画もかくやの広島弁で、ヤミ市の元締めを圧倒してのける。

一歩間違えば命さえ失いかねない修羅場に、なぜ勇人は喜んで身を投じるのか?
それは、復興財源を一円でも多くかき集め日本を“独立”させたいからだ。

……そう、当時の日本は、さきの敗戦を受けて連合国軍最高司令官総司令部=GHQの占領下にあった。現在の独立国家・日本は存在しなかったのだ(今、日本が実質的に独立してるのかどうかはさておき)。

GHQに呼びだされては理不尽な無理難題を押しつけられ、荒れる勇人をたしなめるのは運輸省次官・佐藤栄作、終わりの見えない占領政策にいらだつ2人に割って入ったのは終戦連絡中央事務局(終連)次官の白洲次郎と……役者がそろったところで、3人は昭和の名宰相・吉田茂のもとをおとずれる。

「この真っ白い 何も描いてないキャンパスに
 わしらの『日本』を描くんじゃ」(勇人)
「好きなだけ殴り合うといい そのあとで
 日本の未来について話をしようか」(白洲)
「GHQが何の略か教えてやるッ
 “Go Home Quickly(とっとと帰れ)”だバカヤロウ!!」(吉田)

言動は荒っぽいが夢も大きな池田勇人はもちろん、イギリス仕込みの英語でGHQとも対等に渡りあった真のイケメン・白洲次郎、様々な逸話を引用した名ゼリフで勇人たちを自分の“学校”に引き入れる吉田茂など、日本史大好き人間ならシビれるシーンのオンパレード。
知らなくても、日本のために奔走する政治家たちの熱い生き様がビンビンに伝わってくる。
虚実入りまじって展開するアツい大河ストーリーはさながら戦後版『「ガンダム」を創った男たち。』といったところだろうか。

第二次吉田茂内閣発足で第1巻は幕を閉じるが、そこには早くも“次なる敵”のシルエットも描かれて、期待感はいやがうえにも高まる。
個人的には続巻がもっとも待望される作品である。



<文・富士見大>
編集・ライター。特撮のあれこれやマンガのあれこれに携わる、動物メカ愛好家。『別冊宝島2394 仮面ライダー』や、ただいま絶賛発売中の『別冊宝島 「仮面ライダー」伝説の10人ライダー総特集』にも参加しています。

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