日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『イキガミ様』
『イキガミ様』
TAGRO 太田出版 ¥680+税
(2016年5月24日発売)
大型のショッピングモールが立ったことでかえって田舎くささが強調されるような……「海辺の」というよりは「磯くさい」なんて形容が似合いそうな地方都市。
そこには「イキガミ様」と呼ばれる神様が住んでいる。
何千年何万年も前から生きているというこのイキガミ様、見た目はただのスケベなオッサン。
実際、死なない&空が飛べるという以外はいっさい、なんの能力も持たないし、だから拝んでも御利益なんてまったくない、本当にただのスケベなオッサンである。
そんなイキガミ様を軸にして、生きづらさを抱えた町の住民たちを描く群像劇が本作だ。
「何もない」「どこにでもある」田舎が、温かみのある筆致によって、「それでもそこで生きる人々にとってはかけがえのない場所」として描きだされる。
イキガミ様は何もしてくれず、日常は淡々とすぎていき、けれども、誰も知らないところで世界の危機が救われている。
読者をつきはなすような、それでいて温かく見守るような、……読み終えたあとに深い余韻を残す、神様のいる街の物語である。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas