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『穴殺人』 第7巻 裸村 【日刊マンガガイド】

2016/08/02


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『穴殺人』


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『穴殺人』 第7巻
裸村 講談社 ¥429+税
(2016年7月8日発売)


無料マンガアプリ「マンガボックス」で連載され、人気を博して単行本化された『穴殺人』。
コミックスも7巻を数えて、ストーリーがまた大きな動きを見せようとしている。

『穴殺人』の主人公・黒須越郎(くろす・えつろう)は二浪中のフリーター。
仕送りは絶たれ、ネットは停止、電気・水道も遠からず止まる。
絶望した黒須は、壁のフックにベルトをかけて自殺をはかる。
しかし、苦しくてジタバタしたため、フックが壁からはずれて失敗してしまう。
その結果、壁に穴があいたのだが、そこから隣室の美人女子大生・宮市莉央(みやいち・りお)の私生活を盗み見るうちに、黒須は「宮市さん」の正体に気づいてしまう。 宮市さんは、連続猟奇殺人者だったのだ。

黒須は、最初のうちは宮市さんに人殺しをやめさせて、平凡に暮らしたいと願っていた。
しかし、「人を殺すのが宮市さんだ」と思うようになり、ついには宮市さんに「最後に殺される人間」になりたい、と熱望する。このあたりの、黒須が変わっていく様が本書の読ませどころである。
だからこそ、第6巻で宮市さんが記憶喪失になったと知ると、黒須は記憶を取り戻させようと必死になる。

過去を忘れた宮市さんは、天使のような善良な女性になっていた。
それは、かつての黒須が望んだ姿でもあったはずだが、今の黒須には、それは「宮市さん」ではないのである。ありのままで、その人物を受けいれる――という言葉は美しいが、本当にそれでいいのか? とも思えてしまう。
そういう意味では、第7巻の帯に「クレイジー純愛漫画」とあるが、『穴殺人』の本質をとらえたコピーといえよう。

宮市さんと黒須の脇を固めるキャラクターたちも、一筋縄ではいかない面々だ。
美しい死体を偏愛するがゆえに、宮市さんが殺した死体を引き取り、処理するアーティストの延命寺玲奈(と、ハイエナの仮面をかぶった手下たち)。
神業の如き手術技術を持つ一方で、宮市さんに執着する変態医師・榊光徳。宮市さんに対して苛烈な復讐心を抱く女刑事・シュナイダー純と、被害者の妹である山際春子。
こうした強烈なキャラクターを理解できるかどうかが、『穴殺人』を好きになれるかどうかの分かれ目だと思う。だがしかし、殺人、自殺、支配といった負の願望は、だれであれ少しは持つものだろう。
それを極端に肥大化させて、デフォルメしたのが、宮市さんや黒須をはじめとする、『穴殺人』の登場人物たちなのだ。

第7巻では、新たなキャラクター・我孫子すばるが登場する。
すばるは、神父の娘で、ボランティア団体を主宰しており、宮市さんも現在はすばるのもとで働いている(この「ボランティア団体」がうさんくさく、すばるも善良な少女の裏側の顔がありそうだ)。
すばるから、宮市さんを奪取せんと、黒須は仇敵の榊医師とタッグを組む。
また、刑事を辞めて私立探偵となったシュナイダー純も、宮市さんの所在を突きとめた……と、大きな動きを暗示させて第7巻は幕となるのである。

ちなみに、『穴殺人』のコミックスでは、第6巻までは表紙のイラストに水玉の模様をかぶせていた。水玉で隠れているからこそ、エロチックさが増していて、それが『穴殺人』の目印にもなっていた。
ところが、第7巻では、水玉模様は取り払われ、宮市さんのアップだけとなっている。
表紙の際どさで目をひくような戦略は不要――という自信の表れであろうか?

第8巻では、ストーリー展開もさることながら、カバーがどうなるのかも注視したい。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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