日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『戦争めし』
『戦争めし』 第2巻
魚乃目三太 秋田書店 ¥562+税
(2016年7月20日発売)
戦争を題材にしたマンガは幾多あれど、こんなマンガ、読んだことない!
戦争中の「食」について、様々な切り口から描いたシリーズ第2巻。
海軍兵士たちの混乱の厨房から生まれた、今ではおなじみのオムライスにまつわるエピソード、世界の戦史上最も愚劣といわれる地獄のインパール作戦におけるおでん悲話、戦火を生き抜いた鰻のタレ、特攻の島で生まれた黒糖焼酎にこめられた思い……。
いずれも「悲劇」と呼ぶにふさわしい、壮絶で胸を引きさかれるような戦争の現実が描かれているのだが、そんななかでの貧しい食事にぱああっと顔を輝かせる登場人物の姿を見ると、「食べること」は、生きることとかぎりなくイコールの行為であると同時に、かけがえのない喜びや希望でもあったことがわかる。
戦時下にも辛く悲しい出来事だけでなく、ささやかだが確かな「生の喜び」があったのだと思えば、なんだか救われるような気持ちになるし、飽食の現代とどっちが豊かで人間らしいか? と問われれば、正直わからなくもなる。
それぐらい、著者の愚直であたたかな絵柄は、エピソードにきれいごとではないリアルな説得力を与えているのだ。
もちろん、登場する「戦争めし」自体も、当時の記録を丹念に調べあげたからこそのリアリティにあふれていて、なかでもチューインガムや煙草が入った「米軍の残飯シチュー」がものすごくおいしかったなんてエピソードには、せつないような美しいような、なんとも不思議な気分にさせられてしまう。
戦後70年を経て、生々しい戦争体験を知る機会が激変してきた今だからこそ、人間の生の根源である「食」をとおして、戦時下の人々に思いをはせてみてはいかがだろうか。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69